CMディレクター岩崎裕介さんに聞く、
「広告業界がキラキラするために今、必要なこと」
自分の意見を言える環境づくりを。
―― 自己紹介からお願いします。
岩崎はい。CMディレクターの岩崎です。
ディレクターになりたくてこの業界に来た
CMディレクターなので、
やってる必然性がかなり高い人間です。
―― 元々なぜなりたかったのでしょうか?
岩崎大学時代にずっと演劇をやっていて、
みんなでものを作るのがすごい好きだったんですよ。
それでもなんかこう、
別に自分の中に強い主義主張があったり
承認欲求があったりとか、
そういうタイプでもなくて、
どちらかというと、人のためとか、世の中のためとか、
そういう意識があって。
まぁ「世の中」っていうほど
大仰なものではないのですが、
身近な愛する人たちに、為になることが
何かできたらなっていう気持ちがありました。
あと僕は集中力がなくて、
割とマルチタスク側の人間というか、
並行してたくさん作っていく方が、
ひとつのものを粘って作るよりは
やりやすい人間だという部分もありました。
それと、やっぱり現実世界が僕はすごい好き
というのがあります。
フィクションとか、虚構の世界ではなく。
現実世界の延長線上にあるもの、
現実世界で目にするものを作りたいなということで、
自然とCMの世界へ来た感じです。
―― 来る前のイメージとズレはなかったですか。
岩崎全くなかったです。
絶対向いてると思ったし、
適性があるとは思ってました。
めちゃくちゃこだわりが強い
っていうタイプでもないので、
たとえば自分と意見の違う人が
いていろいろ言われても、別にそれは
みんな事情があって言ってるわけだから
会話をしていきましょうよとも思いますし。
―― 仕事のやりがいはどういう時に感じますか?
岩崎作る過程の中ですね。
みんなで意見を出し合って、
みんながちゃんと参加して作品が出来たときに
感じます。
自分の独断、あるいはクライアントの
一元論的な指示で決まるのではなくて
「僕、こう思うんですけど」「あ、私はこう思います」
「じゃあこうですね」みたいな作り方が好きです。
それは結構CMならではかなと思い、
楽しみながらやってる感じです。
―― 確かに岩崎さんの現場にはそれを感じます。
みんなの対等性というか。
岩崎「ディレクター」というと、手綱を握っていたり、
発注者でもあるわけで、力関係で見ると、
どうしても優位な立ち位置になりがちですが、
それにすごい違和感があって、
別に役割が違うだけなんだから
横並びでやろうっていう気持ちがすごい強いです。
この感覚は後輩たちにもちゃんと伝えていきたい。
誰も偉くないんだよっていう。
PMもクライアントも同じだと思います。
そして誰も偉くないからこそ、力関係とかではなく、
理念のようなものをみんなが共有できると
いいなと思います。
―― とてもよく分かります。
そんな意識を持ちつつの質問ですが、
広告制作において働いていておかしいな
と思うことは
ありますか?
岩崎今の広告業界において、
納品することが最優先されている印象があります。
いいものを作る面白いものを作るというより、
特に問題を起こさずに遂行するということが
至上命題になりすぎているというか。
「工数としては増えるけどこうした方が
より良くなるんじゃないか?」
みたいな検証をしたりする段階をちゃんと踏む。
そういうプロデューサーやPMも勿論いますが、
一方で「今この瞬間をどうやり過ごすか」
あるいは「揉めないようにこうやっときました」
みたいなことが割と多く、
波風を立てないという意識に
傾きすぎている状況が時々あります。
もちろんPとすれば事故を起こしてはならないから
丸く収めるっていうのはわかりますが、
いいものを作ろうとしなくて良いの?
と思うときはあります。
あるいは打席の多さも気になっています。
あまりにもメディアが多様化し、
作るものも増えた結果、
ものを作るということの重みが減っている
気がします。
一つ一つに情熱みたいなのが乗りにくくなっている。
―― それは広告会社のクリエイターの姿勢に
感じますか?
岩崎そちらもそうですし、プロデューサーでも
感じることがあります。
意外と大手のブランドを手がけている方でも
陥っているケースがあるように思います。
大きい仕事をやっているという事実や
ステータスが重要で、仕事自体のクオリティに
興味を持てていないような状態で、
そういう姿勢のクリエイターやスタッフたちは
ナンセンスだと思ってしまいます。
僕はそうなってしまうのが嫌いなので、
自分である必然性のないタレントCMや
大手ブランド広告を安易に受けるのはやめています。
―― 働き方等で違和感あったことはないですか?
岩崎低予算のMVや映画等をやっている時に
少し思うのは「やりがい搾取」ですかね。
「この人気アーティストのMVを
担当させてあげるから低い予算でやってよ」
みたいなのはあって、
ついつい受けてしまう自分もいる。
「お金はないけどやりがいあるでしょ」が
まかり通っているのがおかしい気がします。
それは切り離して考えるべき問題。
かなとは思います。
―― なるほど。
岩崎CMに関して言うと、競合プレゼンの作業で
疲弊しているのを非常に感じます。
競合ということはどれだけ企画を出しても
それが実制作されるかどうかは分からない。
もちろんそれは長い目で見たら
案件を相談してくれたクリエイティブとの
パイプはできるけど、でもそれがあったとしても、
映像にならない場合が多かったり利益も出ない。
言うなれば全てが無駄になる可能性がある作業に
めちゃくちゃ労力がかかっている。
本当はクライアントが広告会社を比べるのではなく
指名にすべきだと思うし、
それでもプレゼンせざるを得ないときは
広告会社も資料作成の工数を
もう少し担うべきなのではないかと思います。
PPMとかもそう思います。
「それ、本当に
プロダクションがやるべき仕事なの?」と。
それこそAIで簡略化できたらいいなとも思います。
―― PPMはもちろん香盤だったりとか
プロダクション側に専門性がある部分は
こちらで書くべきだけど、
全部が全部、体裁を美麗に整えて
っていうのは、過剰かもしれませんね。
岩崎そう、それはね、ずっと素朴に思ってましたね。
それと「待ち」が多いのも気になっていました。
プロダクションとかってやっぱり連絡を待つ
みたいな事が多いじゃないですか。
それがそのまま労働時間の増加に
つながってるような。
でもその「待ち」の中には人の心構えで
解決できるケースもあると思ってて、
僕は即レスをめちゃくちゃ気にしてます。
たとえば僕がパッてロケ地の候補出せば、
すぐロケハン行けるとか。
そういうみんな即レスを心がけましょう
っていうのは、言いたい。
―― 「待ち」が増えれば増えるほど
実際制作に費やす時間が減っていきますしね。
岩崎そう、それでクオリティが下がっていく。
クオリティを上げていくみたいな時間とか意識を
もっと持った方がいいなっていう。
―― 広告主、広告会社、制作会社スタッフ、
それぞれに求めることはありますか?
岩崎広告主に求めることは「育てる」という意識ですね。
目先の商品やサービスが売れたか否か、
今売れているのか、今リーチしているのか
っていうのが2010年代以降可視化されやすくなり、
直感的なコミュニケーションが
あまりにも求められすぎてると感じます。
僕はCMを作る上では全て商品広告にとどまらず、
全部ブランド広告だと思っています。
売れるか売れないかと直線的に考えるのではなく、
まずこのブランドを好きになってもらうとか、
この商品を愛してもらう、みたいな意識を
クライアントも一緒に持ってもらえればいいな
と思います。
そういう長期的な目線で見た広告戦略を持っている
企業がいいなと思います。
広告会社は、企画する上で消費者を
数字として見ないでほしいというのはありますね。
「このターゲット層のここに当てるためには
今これが流行ってるからこう」みたいな話って、
ロジカルで正しいんだけど、それはただ正しいだけ
というか、爆発はしない気がします。
そこに置きにいき過ぎてる部分があるし、
そもそも「こうすれば消費者は動く」っていう
決めつけは、なんかやっぱりどこか人を
舐めてる気がします。
あと、承認欲求を持たない方がいいとも思います。
普通に目の前のことを粛々とやるべきところで、
クリエイターの自意識が前面に出すぎるのは
よくない。
自分の爪痕を残すことに
意識が行ってしまって商品やサービスが
置き去りになる。
それはよくない気がします。
―― なるほど。
岩崎制作会社について思うのは、
さっきの話とも重なるけど、
丸く収めようとしないでほしいっていうとこですね。
さすがにプロダクションはいいものを作る意識を
忘れず最後まで粘ろうよ、頑張ろうよ、
一緒に戦おうよっていうのは思います。
あと、人によって・立場によって、
接し方を変えるのもやめた方がいいよとも思います。
―― そういうのも散見されますか。
岩崎散見されますね。
後輩には当たりが強くてクリエイティブには
愛想いい、みたいなことは普通にまだありますね。
あれはヘコヘコされている側のクリエイティブも
見抜いてるからねって言いたいです。
立場で物を見るのはやめましょうっていうのは
ずっと思ってますね。
―― スタッフの方々に求めることは
何かありますか?
岩崎僕を叱れる人(笑)
とにかく「対等」がいいです、対等が。
―― その「対等」を重んじる風潮を岩崎さんの
現場ではとても感じるんですが、
何かそうなるような工夫を岩崎さんなりに
心がけていることはありますか?
岩崎「お願いして、やってもらっている」
という意識を持ち続けるということと、
どんなスタッフでも意見を言いやすい
環境づくりを、なるだけ意識しています。
僕は芝居以外興味ないんで、絵作りとか
正直わからないんです。
だからそこを任せます・
信頼してますっていうのをちゃんと表明していく
ってことはやってます。
「みんなが他の監督と仕事する時よりも
責任を持ってやってね」っていう(笑)
そういう声の掛け方は僕ならでは
かもしれないですね。
あと、僕の弱点は粘らないっていうところなんですが、
だからこそスタッフはみんな粘ってくれる人が
好きです。
僕みたいに頭がクルクル回転している
というよりは、じっと考えるタイプが多い。
足りないものを補ってもらっています。
あと僕はスタッフとは仲良くなった方が
いい派なんですよ。
めっちゃ飲みに行くし、
友達になってプライベートの話もめっちゃする。
その方が腹割って話せると思ってるから。
僕は友達と仕事したい派ですね。
そこも結構珍しいかも。
―― 広告業界をキラキラさせるために
必要なことは何だと。
岩崎品ですかね。
世に出てる広告が今、品のないものが
増えているように感じています。
それがなぜ作られたのか、
何の目的を持って作られたのか、
どういう人間を動かすためのものなのか、
っていうのがあまりにもつまびらかすぎる。
打算的で、こうすれば人は動くっていう慢心のもと
作られているものが多い気がする。
悪い意味でまあ商魂たくましいというか。
なんかより素朴に。
クリエイターもそうだし
プロダクションのみんなが素朴に
「これがいい」と思ったもの、
純度の高いものをもっと素朴に作れたら。
そしてそれをプレゼン上通すためには、
広告会社とクライアントとの関係性が
大事な気がします。
広告会社がビジネスライクなものに終始せず、
ちゃんと理念とか、こういう風にした方が
いいと思いますと言い続ける。
クライアントの言いなりになるんじゃなくて、
僕らがクライアントと一緒に
成長していくっていうか。
数字だけが全てじゃないという部分を
ちゃんと諦めない関係性の作り方を
していった方がいいというか。
めちゃくちゃ難易度高いんですけど。
それと、やっぱり面白ければ
大変でも頑張れる気がするんですよ、僕らは。
この業界を選んできているみんなは、
お金が欲しいというより、
きっといいものを作りたいとか
面白いものを作りたい気持ちがあるはずだと
思うんです。
ということは、作ってるものが面白いという
自負を持てる環境だったら、
多少大変でもやれる気はしてて。
だから、実はそこが労働環境というか。
意識の改善にもつながるんじゃないか
っていう気はします。
―― ただまぁそれが行き過ぎると
さっき言ってたやりがい搾取に
つながりかねないですね(笑)
岩崎たしかに。
もちろん適切なお金を払うべきなのは前提として。
でもせめて、どうせ大変なんだったら
面白いものを作った方がいいんじゃないか
っていう気はして、とにかく面白いものを
作った方がいいと思う。
我々のやっているのは、
視聴者の15秒という時間を奪う行為で、
それがそもそも罪であるという意識を
持つ必要があると思ってるんです。
人の有限な時間を奪う物を作ってるという意識。
―― だからせめてつくる映像は
チャーミングであるべきだと。
岩崎そうです。
自分はYouTubeで広告が流れたらイラっとするのに、
いざ作るときはそれを意識していない。
そこを変えていく。
おごりとか捨てて。
あとはやっぱりもうこの世の中に
映像がありすぎるから、これ以上
似たようなものを作ってはいけないと思うのです。
無いものを作らないと。
せめて無いものを作ろうとしないといけない。
そうじゃなければ本当にものを作る
意味がないっていう。
お金が移動するだけになっちゃう気がします。
まだ見たことないものを作ろうぜ、
みたいな意識は全員基本で持っててほしいです。
―― いい言い方ですね。
無いものを作ろう、ではなくて作ろうとしよう。
少なくとも姿勢においてはその意識でないと
ということですね。
岩崎そうです。
ぶっちゃけ言うと、あるんですよ、
面白いものはもうすでにある、
無いものなんてほぼ無いんです(笑)
でも、無いものをつくろうとする、
既存のものからちゃんと
はみ出そうとしないといけない。
最近クリエイターが自意識を満たす方法が
バズるか賞を取るかしかない時代に
なってきている、基本的には。
だからみんな共感ありきでものを作って、
それがどうバズったとかそういうことだけに
意識を持っていかれがちですが、
やっぱそこじゃないところで素朴に
自分が本当にいいと思ってるっていうものを作って、
それで納得とか満足できるっていうマインドに
なっていかないといけない気がしています。
「そこを君はどう思う?」みたいな。
いいとされてるんじゃなくて、君はどう思うか。
言われたからそうするとかじゃなくて。
「クライアントはこう言ってます」に対して
「我々はこう思ってるんですよ」っていうのを
伝えたかどうか。
伝えてもダメだったんなら
それはじゃあ言われたことを試します。
会話をちゃんとしよう、言われたからじゃなくて、
一回話し合おうよ、みたいなことも感じています。
そうすれば、「待ち」の姿勢とか
受け身の姿勢がなくなって、もっと業界は
キラキラするんじゃないかと思います。
やっぱり一年目のPMだって、
今目の前で作られているCMが
面白いかどうかなんて
考えているに決まってるんです。
それを「これ面白いですね」
「いや、私つまんないと思います」みたいなことを
自分の意見としてその場で言える。
そんな環境を作っていきたいですね。
―― まさに心理的安全性ですね。
岩崎みんなで作ろう。
お客様だからとか、叱られるからとかっていうことで、
封じてはいけない。
全員で作る。
それが大事だと思います。

1993年生まれ。慶應義塾大学文学部卒。2017年東北新社入社、2019年ディレクターデビュー。会話劇を中心とした、静的で異物感のある演出が持ち味。
2024年、映画レーベル『NOTHING NEW』から、自身初となる脚本・監督作品『VOID』を発表。
- 聞き手/株式会社 東北新社
エグゼクティブプロデューサー
戸田 和也 - 記事公開日/2026.2.2