
株式会社リクルート 萩原さんに聞く、
「広告業界がキラキラするために今、必要なこと」
10年先も残るクリエイティブを目指して
―― まずは自己紹介をお願いします。
萩原リクルートの萩原です。
2006年に武蔵野美術大学を卒業し、
リクルートに入社しました。
来期で19年目になります。
就職活動中、大学の就職課の方に勧められたのが
きっかけでリクルートを知り、入社を決めました。
当初はとある広告会社を志望していましたが
ご縁がなく、弊社のアートディレクターの
募集があり、自分のキャリアのスタートとなりました。
―― 美大ご出身というところで、
はじめから一般企業に入ろうとは
考えていたのでしょうか、
広告にも携わりたい気持ちも
初めからあったのでしょうか。
萩原広告には昔から興味がありました。
明確なきっかけはないのですが、
大貫卓也さんのグラフィックに衝撃を受けたのは
大きかったですね。
また、当時のリクルートも
面白いCMを流していました。
山崎隆明さんのホットペッパーのアフレコCMや、
澤本嘉光さんのタウンワークのダンスCMなど。
当時、広告は面白いもの、
クリエイティブなものという認識があり、
美大生の間でも広告業界は人気がありました。
―― リクルート入社後は、クリエイティブ部門から
スタートして今に至っているのでしょうか。
萩原はい。
入社してから今に至るまでクリエイティブ部門です。
この組織の成り立ちですが、
2001年まではリクルートには制作部門があり、
例えば弊社の求人メディアにおいて
求人広告の制作を担うクリエイターが
在籍していました。
しかし、自社のサービスやコーポレートのデザインや
クリエイティブを担う組織がなかったので、
「これではダメだ!」と立ち上がった
後の私の上司が社内のクリエイティブ人材を集め、
現在私のいる組織の前身となる
「クリエイティブセンター」を作りました。
私はその新卒採用の第1号でした。
―― それはいいタイミングだったんですね。
リクルートのように、インハウスで
クリエイティブ組織を持つ広告主は
そんな多くはないですが、
広告会社さんとの役割の違いみたいなところを
教えてください。
萩原以前は「広告クリエイティブのプロは社外にいる」
「事業理解は事業部の方がある」といった感じで、
インハウスのクリエイターの意義が
問われることもありました。
しかし、広告の環境は急速に変化し、
ビジネスの課題も複雑になっています。
そこで求められる能力のひとつが「翻訳」の役割です。
ビジネスの言語とクリエイティブの言語をつなぎ、
お互いの力を最大限に発揮した上で
クリエイティブを仕上げる。
あとは、私は長年リクルートや
サービスブランドに関わっていますが、
そうすると会社やブランドへの理解が深くなるのは
当然で、且つPDCAの中で積み上げてきた
知見がありますので、ブランドとして、
そして効果を高めるためにおさえないといけない事、
チャレンジすべき事を明確に描けます。
サントリーの重野さんもおっしゃっていますが、
「宣伝部の仕事はブランディングそのもの」だと、
あらためて思います。
―― ありがとうございます。
萩原さんがそんなスタンスで関わられてきた
仕事の中で、これはいい仕事だったなとか
ターニングポイントになったな、
というお仕事があれば教えてください。
萩原ひとつは「じゃらん」のリブランディングと
『にゃらん』の誕生ですね。
2007年にブランドの強みを活かし、
「楽しい」という価値を前面に打ち出すという
リブランディングをしたのですが、
ロゴデザインも楽しさを重視し変更、
『にゃらん』は多様な人が感情移入できるような
存在になるようにと考え生まれました。
その前提になるのが、
リブランディングの核になった
「じゃらん」は何を大事にしていくのか
という問いです。
カスタマー調査や、関わっている従業員への
ヒアリングを重ねながら丁寧に進めたのですが、
そうすると「じゃらん」は「楽しい」という指標が
強かったんです。
雑誌などで積み上げてきた結果だと思います。
そこで、この強みをより活かすというブランドに
していこうと決めたんです。
こうした営みは、
トップがズバッと決めていく方が
はやく進めやすいし、統制もしやすいと
今も思っているのですが、
なるべく多くのメンバーに意見を聞いて、
ロゴのデザインを決める際も
従業員や関係者全員に投票してもらったんです。
ただ、そのまま多数決では
決めなかったんですけどね、
というのもあってロゴ決定の発表をするときは、
納得感を強められるように
従業員の集まる場のために映像つくって
お披露目したりしました。
学生時代は、ブランディングって、
クリエイターが作り上げるものだと
思ってたんですが、それだけじゃなくて、
関係各所、インナーのモチベーションを
いかにあげつつ、気持ちを揃えていく、
ということが非常に重要なのだということを
体感できた案件です。
『にゃらん』がこれだけ続いているのは、
そうして生み出し育ててきたからだと思います。
一方で、この10年はそうしたクリエイティブが
作れてないんですよね。
「10年先も残るクリエイティブを
今の僕らは作れてるんだろうか?」と
最近はよく話したり、考えたりしています。
Airペイの「じゃあいいですぅ〜。」も
印象深い仕事です。
6年以上続いており、10年先も残る
クリエイティブになり得るだろうと
感じています。
―― 長くリクルートに所属されて、
今は管理職の立場にも入られましたが、
管理職になって、
変わったなとか変わらなきゃ、
というところは出てきましたか?
萩原個人でできることの限界を感じたタイミングで
管理職になりました。
リクルートには多くのブランドがあり、
一人で全てのクリエイティブを管理するのは
不可能です。
しかし、アウトプットの品質は
維持しなければならない。
そのためには組織の仕組みを
しっかり作ることが重要だと考えました。
―― クリエイティブの知見だけではなく、
社内合意や取引先とのやり取りなどの観点を
メンバーに伝える際に
工夫していることはありますか?
萩原スキルとスタンスの話があり、
スキルは細く定義し育成計画を作り、
目標設定もしています。
一方で、スタンスは型にはめられず、
人によって変わるものだと思うんですよ。
全員が一律のスタンスで働くっていうのも変ですし、
人格も性格もバックボーンも全く違う人たちが
集まることで起こせる事の可能性を
最大限活かしたいんですよね。
ですので、対話を大切にしています。
週1回の1on1(「よもやま」と呼んでいます)では、
仕事以外の話も自由にできる時間を設けています。
仕事の共有はチーム単位で行い、
気づいたことは都度フィードバックするように
しています。
―― これまでリクルートの中のお話を
聞いてきましたが、進めるうえで
必ず関わって来る広告会社、
制作会社の
皆さんに伝えたいことがあればお願いします。
萩原まず、今の生活者の行動に即した企てを
してほしいなと思います。
例えば、TikTokとかInstagramばかり見てますよ
っていう方々にはどうアプローチするか、
もしかすると広告を届けたい人物像が
明確に定まってるのだったら
交通広告の方が効果があるかも…、
一方でテレビの強さもまだ残っている。
正直、複雑でわからないですよね。
あとは、横の広さではなく、縦の深さ。
クリエイターの皆さんが培ってきた、
たとえばテレビコマーシャルの
クリエイティブに関する知見は、
広告主の比ではないと思います。
なので、僕らがそういう蓄積を理解せずに
いろいろ言ってしまった時に、
「いや、こっちの方がいいんです」と言ってほしい。
そうでないといろんな変数や
情報に振り回され続けて、
結果なんだかよくわからないものが
でき上がるっていうことがよく起きてしまう。
だから、僕があえて指名させていただき
一緒に協業しているクリエイターの方々は、
その意識が非常に強いし、
僕が「こうしたいんですけど」って言っても、
スパッと反対してくれます。笑
―― 実際今広告制作において、ご自身もそうですし、
周りを見て、ちょっとおかしいな、とか
直していった方がいいなと感じることは
ありますか?
萩原いっぱいあるんですけど、笑。
とにかく若い人が憧れる職場であってほしいなと。
若手をフックアップするような賞でも、
以前は20代が多かったのにあるタイミングから
30代以上になってきたり、
昔のような大きな案件っていうのも
少なくなってきていて、且つそういう案件は、
有名クリエイターが担う。
そして若手のチャレンジの機会が少なくなる。
一方で、若手がそういう仕事を担えるのか?
というと、またそれも別問題なのですが、
じゃあまた有名クリエイターにお願いしよう!
ってなると、若手に面白い仕事が回っていかない。
ここは考えないといけないですね。
若手が活躍してない業界は廃れていきますから。
―― 例えば新しい、若いクリエイターさんとか
制作会社の方などを探す場合、
萩原さんはどうされていますか?
萩原たとえばAirペイのCMをお願いした
村田俊平さんは、
当時は若手と言われていましたが、
彼のこれまでの作品がとても面白かったし、
周囲の評判も良かった。
たまにやるんですが、広告会社の方に
「今勢いのある若手は誰ですか?」とか
「面白い人がいたら教えてください」と
聞いたりしてます。
もちろん自分でもそういう人がいないかなと
アワードの授賞結果、
クレジットなんかで探したりもします。
制作会社さんとご一緒するときも、
初めは何が得意なのかが
こちらでわからない事もありますので、
事前にすり合わせはします。
そこから、こちらがやりたいことに対してできること、
足りないことをお互いにどう実現できるかを
話します。
―― 最後に「広告業界をキラキラさせるために
必要なこと」を毎回聞いています。
若手が活躍している状況、と伺っていますが、
業界がもっと良くなるために
必要なことがあれば
お伺いできますか。
萩原とにかく若手が活躍できる
環境を作ることが重要です。
最近、美大の受験者数が増えていますが、
その背景には『ブルーピリオド』の影響がある
と言われています。
僕自身、広告業界を目指したのは、
大貫卓也さんのような憧れの存在がいたからです。
今の若者にとって、憧れの職業は多様化しています。
広告業界が魅力的であり続けるためには、
いい仕事を発信し、
若手の活躍を目にするような機会を
作ることが必要です。
また、若手のチャレンジを増やすためにも、
クライアント側も意識していくことも
大事だと思ってます。
ぜひ、一緒に、頑張りましょう!

株式会社リクルート マーケティング室 クリエイティブディレクター/部長
武蔵野美術大学卒業後、リクルート入社。リクルートグループのコーポレート、サービスのブランディング、マーケティングを担当。カンヌライオンズ グランプリなど国内外のアワードを多数受賞。
SNSでの総フォロワーは10万を超える。
母校の武蔵野美術大学にて社会人への創造的思考育成プログラムの立案、講師も務める。
武蔵野美術大学大学校友会 会長/武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所 客員研究員/公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 クリエイティブ委員/県庁公認 山梨大使
- 聞き手/公益社団法人日本アドバタイザーズ協会
藤田 聡子 - 記事公開日/2025.4.1