広告会社

ADK WONDER RECORDS 市川喜康さんに聞く
「広告業界がキラキラするために今必要なこと」

領域の違うプロフェッショナル同士の化学反応によって、
つくる喜びは巨大化する

―― まず、自己紹介をお願いします。

市川ADKグループで、
ADK WONDER RECORDS(AWR)という
社内クリエイティブブティックをやっています、
市川喜康です。


僕はもともと音楽業界にいまして、作詞家、
作曲家として男性アイドルグループを中心に、
いろんなジャンルの様々なアーティストに
楽曲提供をしたり、プロデュースをしたり
していました。

(※代表作:SMAP「オレンジ」「Triangle」のほか、
嵐「Song for you」、King&Prince「花束」、
Kis-My-Ft2「キミとのキセキ」など)

そういった仕事を12年くらいやった頃に
東日本大震災が起きてしまって、
レコード会社が一年くらい新譜を発売しない
時期があったんですよ。


その間、各地でチャリティーライブを
やったりもしていたんですが、
それでもだいぶ時間があったので、
テレビもよく観るようになって。


そのうちにCMとか広告というものに
興味を持ってしまったんですね。

映像とか、コピーとか、音楽とか、
それぞれ領域の違うプロフェッショナル同士の
化学反応みたいなことがどんどん生まれている
であろう広告の制作現場が、
すごく魅力的に思えたんです。


そういう感覚って、このまま音楽業界で
音楽だけを作っていても、
あまり味わえないだろうなぁって。

―― ありがとうございます。
そのあと、どんな流れで広告業界に
入っていったんですか?

市川まずは「こんなこと考えてるんだよねぇ…」と、
所属事務所に相談をして、宣伝会議に通ったり、
コピーライターとして制作プロダクションで
短期間(社員研修期間)働かせてもらったりしました。

僕、これでいてわりと生真面目で、
ちゃんと1からやりたいタイプなんですよ。

で、あるとき。その制作プロダクションの
アートディレクターに、
「自分はこれから音楽だけじゃなくて、
複合的なクリエイティブの制作現場で、
今までの経験も活かしつつやっていきたいんだ」と、
相談したというか、夢語っちゃったんですね。


そしたら、「だったら代理店に行った方がいいよ」
って言われて。
所属事務所も了承してくれたので、たまたま
縁があった当時のADK(アサツー ディ・ケイ)に
入社しました。

―― ADKグループに入社されて10年ちょっと
経ちますよね。
これまで広告業界でも色々なお仕事を
されてきたと思うのですが、やりがいは
どうですか?

市川広告会社のCD(クリエイティブディレクター)って、
クリエイティブの最初から最後まで関われる
仕事じゃないですか。

オリエンを聞いて、戦略や企画の最初の
ひとしずく(0→1)を考えるところから始まって。

そこからいろんなプロフェッショナルとの
化学反応を楽しんだり、苦悩したりしていると、
たったひとしずくだったものが、
だんだん、だんだんと勢いを増して。

さらにいろんなアイディアを巻き込んで、
みんなで大きなプロジェクトに育てていく。

その中軸で、最初から最後まで関われる
というところに、すごくやりがいを感じています。

いろんなプロフェッショナルの才能やスキルが
うまく噛み合うと、1が100になったり
1000になったりもする。

作曲や作詞を担当した楽曲が、
壮大なアンサンブルになっていく喜びにも
近いんですが、広告業界は様々な
クリエイティブ領域をまたぐ分、
もっと巨大化するというか。


そんな喜びを日々感じたり、
求めたりしている気がします。
その辺りが面白いところですかね。

―― なるほど、なるほど。
モノをつくるっていうことが一番というか、
市川さんはやっぱりそこなんですね。

市川僕はもう、それしかないですね。
もちろん年齢とともに衰えていく部分とかも
あるでしょうし、ディレクション寄りの仕事に
なっていくこともあると思いますけど、
基本は自分で0→1を考えて、それをみんなで
ワイワイぶつけあって、ひとりではできない
巨大なものをつくっていくというのが、
僕の本来の仕事のカタチだと思っています。

―― なるほど。ありがとうございます。
広告業界で働いていて、いいところも
いっぱいあると思うんですけど、
逆におかしいなって
思うことって
何かあったりしますか?

市川おかしいとか、そこまでは思わないですけど。

なんて言えばいいんだろう、、、
僕らってアーティストではないじゃないですか。
ビジネスとしてクリエイティブを生業にしている。
そこを少し勘違いしている人が、
ごくたまに広告業界にはいる気がしますね。

お金をもらっているからこそ、高いクオリティで
クライアントオーダーに応えなきゃいけないし、
責任もある。 クリエイティブはそこに誇りを持つべき
仕事であって、妨げになりそうな個人の主観とか、
趣向は捨てるべきだと思うんですよ。


ですが時々、妙なアーティスト気取りというか、
自分の「作品」みたいな思考を持っている人に
出会うことがあって、そういう人には
ちょっと困惑しますね。


僕自身、この考え方は音楽業界で培ったんだと
思うんです。

裏方である作曲家や作詞家は、プロの現場では、
ただただ自分が作りたい曲なんて
誰も書いていないんだと。

コンサートのこの辺りで、アーティストファンに
こんな感情を抱いてもらうための曲とか、
まさに戦略に則ってプロは最適な楽曲を
作り上げている。

そうでなければ楽曲コンペでは勝てないし、
それが裏方としてビジネスでクリエイティブを
やっていくということなんだと。

もちろん自分がアーティストなら、
いつだって思うままに作ればいいんですけどね。
残念ながらそうではないですから。

―― 広告業界より音楽業界の方が、
よりプロフェッショナルに徹している
ということなんですかね。

市川一概にそうではないと思うんですけど、
おそらく、どれだけ「覚悟」が決まっているかが
大事なんですかね。

これはよくチームの若い子たちにも話すんですけど、
音楽とか、アートもそうかもしれませんが、
それらを生業にしている人って、
どこか人生の早い段階(中学とか高校とか)で、
もうこれしかないと「覚悟」を決めて、
将来これで飯を食うために生きてきたって人が
多いじゃないですか。


だから、その「覚悟」って、自身の中で
もう絶対的なものになっているはずなんですよ。
その「覚悟」を守り抜くために、
“プロの現場で邪魔になりそうなものは
削ぎ落とす”ということが、
自然にできるようになっているんだと思います。

―― 広告会社の方々に求めることと、
クライアントに求めることと、
プロダクションに求めること、
スタッフに求めること。
なんかありますか?

市川何ですかね?全然思いつかないな。

―― じゃあまず、クライアントには?

市川クライアントに何かを求めるという発想が、
そもそもないんですけど、、、
「信用してほしいなぁ」とは、
常日頃から思っていますね。

―― 確かに。
こちらも仕事を受けるからには、
ちゃんと今までの経験も活かして立ち向かう
というか、
やれるだけのことをするから、
「信用してほしいなぁ」っていう気持ちには
結構なりますよね。

市川そうなんですよ。
だって、みんな寝ても覚めても、
ずっと考えてるじゃないですか。

クライアントオーダーに応えるには、

どんな企画がいいのか?どんなコピー?どんな音楽?
どんな監督?どんな映像?って。

だから、もし信用してもらえないとしたら、
結構切ない仕事ですよね。

―― プロダクションの人に求めることは
何かありますか?

市川僕、そんなにいろんなプロデューサーと
仕事してないというか。

幸いなことに泉家さんをはじめ、
広告業界に入って最初の頃に出会った
プロデューサーが素晴らしい人ばかりで、

本当に限られた人とだけやってきたんですよ。

だから、求めることは直接伝えちゃってるというか、
ほぼ無いんですが。

敢えて言うなら、「あの監督いいですよ!」とか、
「あの映画見ました?」とか、
「こんなシステムあるんですよ!」とか、
「あの曲いいですよ!」とか、
その人の感性でキャッチした情報を、
ぜひ僕にも共有してもらえたらなぁと。

―― そうですね。
自分一人だと限界ありますもんね。

市川そうそうそう。

―― スタッフに対しても何かあったりしますか?
例えば、監督とかカメラマンとか。
さっき、まさにプロとプロとの化学反応
という話をしていたので。

市川あ。僕、オールスタッフが好きなんですよね。

というのは、監督はもちろんですけど、
カメラマンとかライトマンとか、
できればいろんなプロフェッショナルから
話を聞きたい。話したい。という気持ちがあって。


もちろん現場で話しかけたりもするんですけど、
撮影中とか編集中は限界があるじゃないですか。


本当はもっともっといろいろ喋って仲良くなりたいし、
いろんなことを教えてほしいんだけど、
なかなか難しいでしょ。

ただ、オールスタッフって、
唯一とても近い距離でいられる時間というかね。

―― 広告業界は、昔に比べて少し人気が
なくなってきているというか、
一時期よりも入りたいという人が
減ってきている気がするんですが。
広告業界が輝くために、みんなが入りたいな
って思うために、
必要なことって
何だと思いますか?

市川あまり人気ないんですか、今?
なんでだろう、、、みんなが知っているような
スターがいないとか、そういうことですかね。

僕らが子供の頃は、バラエティ番組に
「コピーライター」という肩書きの方が
出られていたりして、

子供ながらに「コピーライター」って何だろう?
とか思ってたじゃないですか。

そのくらい一般層にも認知されるスターが
生まれるといいんですかね。
大谷翔平がいるからメジャーリーグを観るとか、
そういうことってあるじゃないですか。

だから広告業界として新しいスターを
作り上げるような策略があってもいいのかも
しれませんよね。

―― 20代30代の人に何かこうした方がいいとか、
ありますか?

市川働き方とか、時代とともに色々変わってきていますし、
ジェネレーションによって、
やっぱり仕事への取り組み方も意識も、
全然違いますよね。


で、そこは別に違っていていいと思うんですけど、
クリエイターとしては年齢関係なくライバルなわけで。


僕らクリエイティブは、その戦いで勝つために
どう準備をするのか?そこに尽きるんだと思います。


1回目の案だしから完成の瞬間まで、
そのとき、そのとき、どれだけの準備ができるか。
そして、以前は出来なかったことに
どれだけ挑戦できるか。
チームに貢献できるか。
逆に、ひとりでもやり切れるか。
その辺りだと思います。

肩書きなんて何の意味もなくて、
常に実力勝負の戦いですから。

その「実力」こそが、=「準備力」なのだと。
もちろん、「準備力」を紐解けば、
そこに個々のクリエイターとしての様々な
スキルが含まれるのですが、
まずはどう戦いに臨むかというスタンス(構え)が
大事ですよね。

―― なるほど。
では、市川さんよりも上の年代の人に対しては
何かありますか?

市川広告業界も、音楽業界も、自分より上の年代が
すごく頑張っていらっしゃるなとは、
常々感じています。


めちゃくちゃ忙しくされているような方が
たくさんいるし、そういう人たちって
揃ってみんな格好いいし。


僕もそんな年齢までつくり続けけられるように、
もうちょっと頑張って体力をつけてかなきゃな
って思っているところです。

市川 喜康(いちかわ よしやす)

ADKグループ・ADK WONDER RECORDS 代表 クリエイティブディレクター。
1976年生まれ。1999年、中村俊介「旅の者~Love & Peaceって一体何ですか?~」(ビクターエンタテインメント)で作詞家・作曲家デビュー。 吉本興業に所属し、SMAP、嵐など多数のヒット曲を生み出す一方、ADKグループに入社。広告クリエイティブに従事。 CDとして日本赤十字社・はたちの献血、楽天モバイル、KIRIN / DIAGEO Japan「ホワイトホース」などを手がける。

  • 聞き手/太陽企画株式会社
    執行役員/プロデューサー
    泉家 亮太
  • 記事公開日/2024.12.1
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