撮影 蔦井孝洋さんに聞く、
「広告業界がキラキラするために今、必要なこと」
自分なりのあこがれや楽しみを見つけ、
楽しんで仕事をする
―― まずは、自己紹介をお願いします。
蔦井映画、ドラマ、コマーシャルも含めたカメラマンを
やっております、蔦井孝洋と申します。
―― カメラマンになったきっかけを教えてください。
蔦井もともと映画やドラマが好きで、
そういうものばかり見て育ち、
将来的に「映画監督になりたい!」と思い
学校へ行きました。
学校ではシナリオを書いて通った人が演出する
っていうシステムでしたが、僕のシナリオは
なかなか通らなかった。
そこで、シナリオが通った人の脚本で僕が
いいと思った作品のカメラマンをやっていました。
卒業することになって、助監督の働き口もないし、
これはどうしたもんかなって。
撮影現場では大概カメラの横で
監督が演出しているだろうから、
とりあえず撮影部をやろうと機材屋に行き、
フリーランスとして撮影助手の仕事をはじめました。
はじめてみると、そんな片手間でできるような
仕事じゃなくて。
それでもいつか監督に!なんて思ったりもしましたが、
じゃあ明日から助監督に!なんてこともないので
真面目に取り組んで、まずはカメラマンとなろうと
思ったのがきっかけです。
―― 仕事に取り組むとき意識していること、
こだわっていることはありますか?
蔦井CMと映画では撮影のやり方が違うかなと
思える部分はあります。
でも、最近は広告の仕事でもWEBCMとか
WEBドラマとかもやることが増えているので、
明確な線引きというものは昔よりなくなってきている
と感じています。
僕の場合共通していえるのは、
皆さんもそうかもしれないけれど、
監督がどういう映像を欲しいのか、
何をやりたいかということに心を砕くこと。
それがまあ一番かなって思いますね。
「俺の映像」とか「俺はこういうやり方しかしない」
って言う人もいますけど、僕の場合は
そんなこと言うなら、その人が監督になればいいって
思うタイプなので、監督が求めているものが
どこまで出せるかっていうのがテーマですかね。
例えばドローンもないのにドローンみたいな映像
撮ってくれって言われたら、そういう場合はできません
って言いますけど。
それ以外のことはなるべく監督の要望に
応えられるようにするっていうのは、
自分の使命かなとは思っています。
―― 時代とともに変化しているなと感じることは
ありますか?
蔦井僕が撮影部の仕事をはじめた頃は
映画やCMはフィルムで撮影して、
ドラマはビデオで撮影するということが
ほとんどでした。
なので、まずは機材の扱い方を覚えなければ、
ある程度の仕事ができないというような
環境でしたね。
今はデジタルになって技術も進化して、
誰でも撮影しちゃえばカメラマンに
なれるような時代だって僕は思っているんです。
その人が撮ったものが、
例えばYouTubeで「これすげえや!!」
って言われたら、
その瞬間からもうみんなに認められて
カメラマンになれるわけで。
僕らのように長い下積みをしなくても
カメラマンになれるチャンスがたくさんあり、
さらにカメラマンとして生きていける時間が長くなる。
そういう意味ではとてもいい時代になったのではないか
と感じています。
もちろん下積みの経験は、今の僕にとってとても
貴重な財産ではありますが・・・。
―― それは撮影に限らず、
プロデューサーや制作もそうですよね。
蔦井そうそう、自分で企画して、撮影して、編集して
仕上げたものが評価されればプロデューサーや
クリエイターとしての立場が確立しますよね?
ただ、そういうように自分で表現ができるとなると
広告や映画・映像に縛られず、他の業界に
いってしまうこともありますよね。
もしくは、日本でなく海外へいってしまうとかも
あるだろうし・・・。
―― 蔦井さんはいろいろな映像分野で
カメラマンとしてやっていらっしゃいますが、
広告映像の現場で働いていておかしいな?
と思うことありますか?
蔦井おかしいなってことなのかはわからないけど・・・
アングルチェックってありますよね。
もちろん忙しい人たちを時間内に撮影しないと
いけなかったり、クライアントの要望があったりと
必要なものだと思うんだけど。
たまにそれを詰めすぎてしまうことで
実際の撮影が、過去のことをもう1回再現する
という感じが強くなりすぎる。
CMは映像の最先端であるべきはずなのに、
なんか新鮮味がなくなるというか
面白味がなくなっちゃうのではないかなと
感じることがたまにありますね。
もう1つは、クライアントの言っていることに対して
それよりもっとこうした方がいい、
こうした方が面白いといったような議論する
クリエイティブの人たちが減ってきているな
という感じもしますね。
もちろん現場以外のところでも
たくさん議論をしているとは思いますが、
以前に比べてそれを感じる機会が
減った気がします。
ああ、あと撮影現場で昼間一番意見していた
代理店の人が、夜になったら突然いなくなっている
とかね(笑)。
あんまり言っちゃうと
仕事がこなくなるかもしれないな(笑)。
―― 蔦井さんがプロデューサー、
PMに求めることってどんなことですか?
蔦井当たり前のことですけど、
プロデューサーはしっかり作品の規模を把握して、
「できること・できないこと」の判断と、
「やりたいこと・必要ないこと」の判断を
どんなCD、どんな監督に対しても
できるようになっていってほしいですね。
特に最近は、予算が少なくなっているし、
物価や人件費は上がってきている。
にも関わらず、求められることが多くなっているので、
プロデューサーの判断や価値は
ますます大切になってきていると思います。
PMには、まず僕らの仕事はPMがいないと
回らないとても大切な仕事であるということを
知ってほしいです。
PMのことを制作進行という言葉の通り、
みなさんには現場の進行を円滑にまわしていくために
どうしたらいいんだろうか、ということたくさん考え、
たくさん相談してもらいながら、
多くの現場に参加して経験やスキルを
さらに上げ続けていってもらいたいですね。
今は時代とともに仕事が細分化されて、
現場に専門性が高いフリーランスのPMも
たくさんいますが、彼らにまかせっきりにせず
「自分が現場を回している!」ということを
忘れずにいてほしいです。
もちろん今でも優秀なプロデューサーやPMは
たくさんいると思いますよ。
大切なのは自分の仕事のやりがい、
楽しみを見つけて、見つけたやりがいや楽しみを
仕事の中でちゃんと実感してほしい。
これって人から与えてもらえることもあるんですが、
自分で見つけることが大切!
何よりも作り手の一人として、
楽しんで仕事をやってもらいたいんですよね。
―― 蔦井さんから見て、この業界は
もっと魅力的になる(キラキラする)と
思いますか?
蔦井極端な言い方かもしれないけれど、
僕は僕らの仕事は、もしかすると
無くてもいい仕事かもしれない。
だけど、無くてはいけない仕事だと思っています。
見ている人に「あの人かっこいいな」とか
「おいしそうだな」とか疲れて帰ってきたとき、
「あのCMのビール飲んだらうまかったなあ」
っていうような、ちょっとした憧れや
ちょっとした想いを伝える仕事。
僕はたかがカメラマン。
されどカメラマンなんです。
だからこそ携わっている作り手みんなが
自分の仕事に対して、楽しみやあこがれ、
それぞれの想いを持って向き合ってもらいたいと
思っています。
それってこの仕事をはじめたいと思った時に
自分が持っていたことでもあるのでは
ないでしょうか?
上司や先輩の人たちはその想いを持って、
その姿と背中を若い人たちに
見せていってほしいですし、
若い人たちはさっきも話しましたが、
そんな上司・先輩たちの背中を見ながら、
自分なりのあこがれや楽しさを見つけていくこと。
そうやっていくことが、
世代問わずみんなでこの業界を
もっともっと魅力的にしていけるのではないかな
と思っています。
―― 蔦井さん、ありがとうございました!
BOND所属 カメラマン
1964年鳥取県出身。「ジョゼと虎と魚たち」で日本映画撮影監督協会三浦賞、「眉山」で日本アカデミー賞最優秀撮影賞を受賞。映画・CM・ドラマ・MVなど幅広いジャンルで活動。
- 聞き手/株式会社ADKクリエイティブ・ワン
総合プロデュース第5本部
第2クリエイティブプロデュース局長
和田 優輝 - 記事公開日/2024.10.1