プロダクション

プロデューサー早坂匡裕さんに聞く
「広告業界がキラキラするために今必要なこと」

プロデューサーは、
プロの“ゼネラリスト”

―― まずは自己紹介からお願いします。

早坂ギークピクチュアズの早坂です。

プロダクションマネージャーを7年経験して、
プロデューサー歴14年になります。

―― プロデューサーの仕事で、
どんな部分にやりがいを感じていますか。

早坂僕が携わる仕事の90%くらいが
テレビCMに関わるもので、クライアントや広告会社、
制作スタッフなどと協力して作り上げる、
オーソドックスなスタイルの仕事が多いです。

プロダクションマネージャー時代は、
最高のロケーションを自分で探したとか、
何百人もいるエキストラの現場を
完璧に仕切ったとか、
実制作の準備や撮影の過程で
やりがいを感じていました。

プロデューサーとして数年経った現在は、
企画段階からディレクターを含めた
制作スタッフのスタッフィングや
演出コンテまでの初動のプロセスで
やりがいを感じることが増えました。

クリエイティブのアイデアや
クライアントのメッセージを映像に落とし込む際に、
自分のフィルターを通して、
最終的なアウトプットをイメージしながら
座組みや作り方を考える、
最初の工程が非常に面白く、
やりがいを感じています。

―― どのようにして自分らしさや個性を
映像に反映させていますか。

早坂たとえばディレクター選定においては、
まず企画を見て、世の中に映像として流れたときの
視聴者の反応をイメージします。

広告のアウトプットにおいて
面白いアプローチができるかどうかを考え、
視聴者が感じる受け取り方や
企画の特性に合ったディレクターを
チョイスすることが多いかもしれません。

―― ディレクターのチョイスが今一番面白く、
やりがいになっているのでしょうか。

早坂ディレクターに限らず、さまざまなスタッフィングの
掛け算が面白いと感じています。

自分の関係値や経験を活かして、
制作スタッフの新しい組合せを見つけたり、
CM業界ではないゲーム系のクリエイターを
アサインしたりすることも面白かったです。

―― プロデューサーとして、
ご自身が大切にしているポイントや
信念などはありますか。

早坂広告映像制作のプロデューサーは、
映像制作のクラフト面だけでなく、
クライアントや広告会社など、
いろいろな立場の人と対峙する仕事だと思います。

制作スタッフでは演出のプロ、カメラのプロ、
ライティングのプロ、スタイリングのプロ
といった人がいますし、
クライアントや広告会社においては、
マーケティングのプロ、
コミュニケーションデザインのプロなど、
映像ではない畑のプロフェッショナルの人たちが
たくさんいらっしゃいます。

プロデューサーはその真ん中で、
多ジャンルのプロフェッショナルを繋ぎながら、
自らのフィルターを通して、
プロデューサー個人の彩りを加えていくと
良いのではと考えています。

そういう意味で、プロデューサーは、
プロフェッショナルたちのハブになる
“プロのゼネラリスト”という役割を担う仕事だと
思っています。

プロダクションにおける
ビジネスマインドの必要性

―― 広告制作業界において、ご自身が思っている
問題点や未来に対して危惧していることは
ありますか。

早坂ひとつは、プロダクションに所属している人も、
経営側に近い人も、プロダクションとして
どの方向に進むべきかという
課題意識を持っている気がします。

たとえば、人員確保だったり、
受注ボリュームの調整だったりですね。

もうひとつは、広告制作というビジネスの
捉え方が変化してきているように感じます。

たとえば、映像制作の職人気質から
ビジネス的なマインドに切り替えることが
必要な場面が増えてきています。

―― 具体的にはどういうことでしょうか。

早坂映像制作のビジネスとしての「売り買い」において、
発注側と制作側の価値観の違いからくるズレが
見受けられます。

映像職人としてのプロデューサーは、
クラフト力や技術にこだわり、
高品質な映像を提供することを
商品としている場合があります。

一方、映像が簡単に作れる時代において、
クイックに安価な映像を発注者に納品することが
サービスであるという物差しが生まれました。

受発注者の間でその価値観が
マッチングしていないと、
「どうしてこんなに時間がかかるの?」
「どうしてこんなに費用がかかるの?」
といったように、スケジュールや予算で
誤解が生まれ、ズレが生じることもあると思います。

―― 異なる価値観や期待が生む課題は深刻ですね。

早坂プロダクションのキャリア構築の過程も
要因のひとつだと考えています。

プロデューサーになりたての人が
直面する課題として、
ビジネスとしての側面を見落としがちなことが
挙げられます。

プロダクションマネージャーは
制作スタッフとの対峙、
つまり「仕入れ」に関するやり取りがほとんどなので、
仕入れ値だけのコスト感が先行してしまい、
プロデューサーになってすぐの頃は
利益を生み出すという側面が欠如しがちに
なっているのではないかと思っています。

また、赤字でも受注しやすく、
低バジェットの仕事を受け入れがちな
若手プロデューサーが増えているように感じます。

これは新規の仕事が来たこと自体に喜びを感じ、
ビジネスとしての成立を見落としている場合が
あります。

プロデューサーとしての
商品の売りどころを明確にしておけば、
改善できる部分もあるんじゃないかな、
と思います。

―― 業界全体でのビジネスマインドの向上が
求められる状況ですね。

早坂業界特性なのか、偏った言い方をすると
「職人」養成所というような風土がある
プロダクションの教育として、
「ビジネス」マインドを育てて、
「ビジネス」脳を持つクライアントや
広告会社と対等に会話のできるようになることが
必要なのかな、と思います。

高品質な映像か、安さと早さか

―― プロダクションにおいて感じている
問題意識はありますか。

早坂特に問題だと感じているのは、技術力の低下ですね。

大手といわれるプロダクションは
脈々と受け継がれてきた高い技術力が
今でも継承されていると思いますが、
「安く、早く作れる」と謳っている
プロダクションが増えています。

それが技術力の低下に繋がっているのではないかと
危惧しています。

たとえば、50万円、100万円で
動画広告が作れることを
アピールしているプロダクションは、
僕たちが作っているような映像は
作れないと思うんです。

―― 今の映像制作業界が抱える難しさ
なのかもしれません。

早坂映像制作は、昔は技術としての
高いハードルがありましたが、
デジタル化などで敷居が下がり、
クラフトとしての境界線が曖昧になっています。

どちらが良い、悪いではなく、
職人による匠の技の境界線はどこなのか、
技術力とは何かという議論が必要だと思います。

「安い、早い」だけのものは
テクノロジーの進化によって
どんどん増えてくると思いますが、
「安い、早い、美味い」が一番良いはずなので、
本当に美味しいって思えるものを
作れるかどうかが僕たちの未来を
左右すると思います。

そこそこの美味しさで満足して、
たくさん作った方がお金儲けできる業界に
なっているかもしれません。


クライアントが広告費用にかけるコスト感だったり、
内容だったりは時代によって
変わると思うんですけど、
映像制作のプロフェッショナルとしての
技術を磨き続けていかないと、
誰でもできる仕事になってしまうので、
将来的に技術力は下がっていくんじゃないかなと
思います。

―― 早坂さんはどうすれば解決できると
思われますか。

早坂技術力があるかないかの認識が
不足している人が増えている気がします。

あるいは、業界内で、本当に美味いものを
追求する姿勢が減っているように感じます。

ただ、自分の周りにはめちゃくちゃ美味いものを
追求しているクリエイターがたくさんいます。

クライアントや発注者がどう考えているか
による部分もあると思いますが、
自分が受注する仕事は技術力を
求められるケースが多く、
面白い仕事が多いです。

―― 広告主や広告会社、プロダクション、
制作スタッフ、それぞれに求めることは
ありますか。

早坂僕たちプロダクションは、
映像制作のプロフェッショナルですが、
クライアントや広告会社には
マーケティングや企画、PR、
コミュニケーションデザインの
プロフェッショナルがいて、
同じ映像を一緒に制作しているものの、
少し異なる分野のプロです。

なので、仕事で関わる皆さんの領域を
できる限り学んで、
共通理解を深められるよう努めています。


逆に、クライアントや広告会社の方々は
映像制作のプロではないので、
制作プロセスやコストのかかるポイントなどに
疑問が生じることは当然だと考えています。

そのために僕たちがいて、
プロとしての業務内容を知ってもらい、
興味を持ってもらえれば、
お互いに深い理解を共有することで、
良いアウトプットに結びつくと思っています。

―― 相互理解が生まれることで、
よりクリエイティブで効果的なコンテンツが
制作される可能性が
高まりそうですね。

早坂広告会社においては、
当然クリエイティブの方々は
映像制作に対する造詣が深いですが、
営業やビジネスプロデューサー、PR、
クライアントのマーケティングや
広報担当者たちにも映像制作のプロセスに
理解や興味があれば、
なにか問題が発生した際にも
良い回答ができる可能性があります。


ですので、技術力の向上だけでなく、
業界内での幅広い理解が
必要だと思っています。

先ほどから「技術力」と言っていますが、
いわゆるCM業界は映像制作においては
相当高い技術力を持っていると感じていますし、
その源になっている制作スタッフの皆さんから
毎日勉強したいと思っているので、
まだ見ないワクワクするような職人の匠の技を
これからも見せ続けてもらえると
刺激的だなと思っています。

私が考える、
「広告業界をキラキラさせるために、今必要なこと」

―― これから広告業界に新たに入ってくる若者に
魅力を感じてもらうために必要なことは
何だと思いますか。

早坂それは、お金です。

会社員でも、フリーランスでも、
この業界が稼げるキラキラしたものであるように
見せられると良いと思います。

個人的には、お金に惹かれたわけではありませんが、
若い人たちのなりたい職業ランキングで
1位がYouTuberなので。


仕事もプライベートも充実している姿勢を
見せることも大切だと思います。

趣味ではなく、仕事として
大半の時間を使いますからね。

制作費でいうと、
ハリウッドや韓国を見ると分かるように、
コンテンツにお金をかけているものが目立ちます。

日本はまだ追いついていない印象があるので、
映像に関わるすべての人たちが協力し合って、
国策として助成金が充実するような
環境を作れると良いですよね、
好き勝手言ってますが(笑)。

しょぼいものを作り続けていたら
キラキラは感じないと思うので、
広告業界が魅力的になるためには、
刺激的でキラキラした映像を作り出すことが
必要だと思います。

―― キラキラを感じる映像とは、
具体的にどういうものでしょうか。

早坂見た目がすごい、迫力がある、
ストーリーが面白い、共感できるなど、
何でも良いと思います。

広告に限らず、映画やコンテンツ映像でも
面白いものはたくさんありますが、
制作費がかかっているものは、個人的な意見ですが、
映像の圧倒的なクオリティがあります。

神は細部に宿る、ではないですが、
CGひとつにしても表現の粒度が異なりますし、
俳優のクオリティも高いです。

資本主義ですから、お金があると
できることはたくさんあるというのが現実です。

お金がなくても面白いものはありますが、
広告業界においては、お金が多く動くことで
キラキラする気がします。

―― 最後に、「広告業界をキラキラさせるため、
より良くするために必要なこと」は
何だと思いますか。

早坂大きな視点で言うと、
対話が増えていくと良いなと思います。

同じ会社内や同じチーム内はもちろん、
他のプロダクション間やスタッフとのつながり、
そして広告会社やクライアントとの
対話も含めてです。

お互いが知らない領域を少しずつでも
理解し合うことで、同じ目線が生まれたり、
新しいビジネスや表現が生まれたりすることが
あるかもしれません。

現状は縦割りや横割りが
感じられることもありますが、
クライアントから広告会社、
そしてプロダクションやスタッフなど、
対話が増えることが望ましいと思います。

進行中のプロジェクトにおいて、
必ずしもそのような交流が
必要なわけではありませんが、
たとえば、クライアントの社内で
映像を作る勉強会などを実施している
プロダクションもあります。

こうした場で、広告映像の制作プロセスを
知ってもらうとともに、
クライアントからマーケティングや
コミュニケーションデザインに関する知識を
共有してもらうことで、対話が活性化しますし、
お互いの視点を広げることができるのは
良いなと思います。

―― 早坂さん、ありがとうございました!

早坂 匡裕(はやさか まさひろ)

株式会社ギークピクチュアズ 執行役員/チーフプロデューサー
2004年にCM制作会社に入社。 2012年にギークピクチュアズ入社。 マクドナルド「ティロリミックス」、GATSBY「カッコいい、は変わる。」、伊藤忠商事企業CM、日清カップヌードル「HUNGRY DAYS アオハルかよ。」、TOYOTA「TOYOTOWN」シリーズ等、数多くのCMプロデュースを手掛ける。

  • 聞き手/株式会社ギークピクチュアズ
    取締役/プロデューサー
    小澤 祐治
  • 記事公開日/2024.2.1
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