広告会社

クリエイティブディレクター安藤宏治さんに聞く
「広告業界がキラキラするために今必要なこと」

―― よろしくお願いします。
まず、自己紹介をしていただけますでしょうか。

安藤1990年に博報堂に入社した、安藤宏治です。

最初の一年間コピーライターをやって、
「コピーの才能ないね」って上司に言われて(笑)、
元々志望していたCMプランナーに変わって、

数年間でわりと自分らしい仕事が
できるようになった後、また時を経て
クリエイティブディレクターになりました。


統括してクリエイティブディレクションをする今でも、根本的にはCMの力を信じていて。
若い人がTVを見なくなったのは事実でしょうが、
それでも広く世の中に届けられる力はありますよね。

だから、CMは最初から自分で企画し、
最後のディテールまでしっかり携わっています。

代表作は古い話になりますが、二十数年前に担当した
SEGAの「せがた三四郎キャンペーン」ですかね。

―― せがた三四郎、とても印象に残っています。
そもそもこの業界を受けたきっかけや
理由を教えていただけますか?

安藤大学は建築学科でしたが、
映画を見ることがとにかく好きだったので、
映像に携わる仕事の方が自分に向いてるなと
感じていました。

それで、「広告代理店という所がCMを企画し、
制作するらしい」と知って、博報堂を受けたんです。
三十年以上昔のことですが、
今も飽きることなくこの仕事に就けているので、
当時の判断は正しかったんだと思います(笑)。

―― 「仕事のやりがい」って、
一言では終わらせられないかもしれませんが、
何だと思われますか?

安藤「やりがい」と考えた時に、
「人のために」という視点と、
「自分のために」という視点が
ついて回るような気がします。

「人のために」という視点で言うと、
社会は基本的に世の中を良くするために
動いている、そうであってほしいと
僕は考えています。


企業が未来のためにどんな努力をしているか、
どんな商品を出して人を幸せにしようとしているか。

企業でない団体であっても、その活動によって
世界をどう良くしていこうとしているか、など。

そういう思いに賛同して、
これを広く世の中に届ける役目を担うことは、
個人にとっても一つの大きなやりがいだし、
仕事の「目的」でもあります。

「自分のために」という視点で言うと、
表現を突き詰めていく楽しさ。
これが、もう一つのやりがいであり、
日々をワクワクさせてくれる一番大事な要素です。

様々なディテールを突き詰められるのは、
一緒に仕事をする人たちのプロフェッショナルな
才能のおかげでもあります。


コピーライターの言語能力、
アートディレクターのデザイン力、
演出家がこんな斬新なアイデアを付加するんだ!
とか、演者・タレントがこんな表情で
言いたいことを表現してくれるんだ!とか。
いろんな才能が集まって一つの作品を
仕上げることに、何より醍醐味を感じます。

その起点となるアイデアを考える時は、
皆がやりがいを感じてくれるものにしなければ
という責任も感じますね。

―― ありがとうございます。
なんか人のためっていうのが
最初に来るところが安藤さんらしいな
って思います。
次の質問に移らせていただくんですが、
安藤さんはもう業界入られてから三十年以上
ってことですよね。

その中でもいいですし、ずっと続いてること
でもいいんですけれども、働いていて、
何かこれ
ちょっとおかしいなとか、
ここを変えたらいいのにとか。
そういったところあったりしますか?

安藤最近はそうでもなくなってきたと思いますが、
受注側と発注側で、お互いをリスペクトしていない
関係だなって思った事は何度かありましたね。


言い方は悪いですが、
クライアントが広告会社を下に見て、
広告会社がプロダクションを下に見てしまう。
そういう人が多かった時代もあったと思いますし、
今も皆無とは言えないでしょう。


本当は、一つの広告を発信する上で
全員が力を出し合う、一つのチームとなるのが
健全な姿だと思うので、

クライアント・広告会社・プロダクションに
上も下もない環境であればいいなと思います。


もちろん、これを実現できているチームも
現にあるんですよね。
だからそれがみんなの共通意識になればいいな、と。

―― お互いリスペクトしてるってことですよね。

安藤お互いの立場に立って考えてみることも
大事ですよね。
ちゃんと想像力を持って。

―― ありがとうございます。
では、広告会社の方から見て、
広告会社に求めることって何ですかね。
いろんな職種があると思うんですけども、
主にクリエイティブ職と営業職について
聞かせてもらえますか。

安藤広告会社のクリエイティブ職に求めること…
何でしょうね。
自分に返ってきそうで(笑)。

誰にもわかる広告にすることも大事ですが、
「わかったけど、それが何か?」という広告だと、
やっぱり面白くない。

企画する際に、課題を噛み砕いて、
そこで終わらずさらに「粋」なことを
加えていきたいと、常に思っています。


単に「こういうのは流行っている」とか
「バズってる」と言って、後追いするのではなく。
クリエイティブ職の人には、
自分が新しい「面白い」を作っていくんだという
意気込みを持ち続けてほしいです。


営業職であっても、
「自分はこんなものをやりたい」という意思や
企みを見せてくれる人が好きなので、
一緒に楽しく企みながら、
仕事をすることを要求します(笑)。

―― 続いてですけど、プロダクションに求めるものを
教えていただいていいですか。

安藤プロダクションに求めるものですか。
「あんまり働き過ぎないで!」って(笑)。

さっきも触れましたけど、代理店の人間で、
なんか自分の方が立場が上だと勘違いして、
ムチャ振りする人がいたり、

プロダクション社内が体育会系で
山のように膨大な資料を集めさせられたり、
そんな時、「時代は変わりましたよ」と、
直訴していいと思います。


そこに無駄な時間を使うくらいなら、
自らのインプットに時間を費やした方が
いいと思います。
よりクリエイティブな体質になれますよね。

―― さっきお話ししていたチーム感や
リスペクトに通じますね。
次の質問です。
よりいい業界にするために
何か必要なことってなんでしょうか。

安藤個人的には、広告制作って、
輝きを失ってはいないと思うんです。
まだ“キラキラ”している。

そりゃ多少は輝きも鈍っているのかもしれないけど、
やっぱりしびれるような楽しい瞬間はいくつもあって。

粋な映像表現を作れた時、
好きな俳優さんと仕事できた時、
音楽が仕上がってCMのクオリティが倍増した時。新しいこともまだまだ学べて。


それは表現フェーズだけじゃなく、
得意先からオリエンを受けながら、
未知の世界を学ぶこともよくあります。

どの段階であれ、1ジョブ1興奮とでもいうのか、
相変わらず自分の中では、“キラキラ”した部分は、
今も確かに感じられます。


では、広告業界全体をより良くするために
何が必要かっていうと、
まあおこがましい話ではありますが、
シンプルに「良いアウトプットがもっと増える」
ということが、一番のポイントかなとは思います。


見たらつい話題にしたくなるようなクリエイティブ。
それが世の中にもっと増えるためには、
自分も含め業界各人がより多くを学ぶ姿勢も
必要なのかなと。
世界の課題をしっかりインプットしたり、
表現のディテールにこだわりをしっかり入れたり。


そんなことですかね。

―― 良いアウトプットというゴールを
いろんなレイヤーの人が
いろんなものを乗り越えて
一緒に目指せるのが理想ですよね。

―― 最後の質問です。
若い世代に言いたいこととか
伝えたいことって何かあったりしますか?

安藤自分が若い頃を振り返ると、結構頑固で、
先輩の言うことに楯突いた時もあったんですよね(笑)。

なので時には、先輩に素直になるのではなく、
自分に素直になってみてもいいかもしれません。
もちろん、礼儀はわきまえた上でですが。

自分が本当にやりたいと思ったことなら、
反対する先輩を説得する努力をしてみても
いいと思います。

玉砕しても責任は取れませんけど(笑)。

―― 本日はありがとうございました。

安藤 宏治(あんどう こうじ)

株式会社博報堂 CR局 クリエイティブディレクター
1990年博報堂入社。早稲田大学建築学科卒。
コピーライター、CMプランナーを経て、クリエイティブ・ディレクターとなる。
主な受賞歴 92年TCC新人賞「文芸春秋」/94年TCCクラブ賞「としまえん」/99年TCC部門賞「セガサターン」/2000年アジア太平洋広告祭ブロンズ「セガラリー2」/02年ACCブロンズ「カゴメ体内環境正常化」/03年ACCファイナリスト「セブン・イレブン」等

  • 聞き手/株式会社博報堂プロダクツ
    プロデューサー
    金子 裕
  • 記事公開日/2024.8.1
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