プランナー/ディレクター鈴木健太さんに聞く、
「広告業界がキラキラするために今、必要なこと」
企画も演出も、
目指すべきところは同じ。
エージェンシーとプロダクションの
境界は、
本来なくていいはず。
―― まずは自己紹介からお願いします。
鈴木鈴木健太です。
電通では広告の企画をすることが多いのですが、
もともとは会社に入る前から
フリーで映像ディレクターをやっていたり、
アートディレクションや営業みたいなことも
やっていたりして、インディペンデントな環境で
泥臭く活動していました。
「美大を中退し、フリーを経験したあと
広告会社に入る」という不思議なキャリアで
5年がたちました。
―― 広告会社の仕事で、
どんな部分にやりがいを感じていますか。
鈴木届いた!って実感が湧いた時です。
それは「とても多くの人に届いた」ってだけでなくて、
だれかひとりのツイートを読んだ時だったり、
少し世の中の風向きが変わる兆しになったり、
クライアントさんと自分たちが
二人三脚でやってきたことって
間違ってなかったのだとほっとするときに、
やってよかったなとやりがいを感じます。
自分たちが意図したことだけでなく、
全然違う方向に広がることもあって、
それも気づきや学びとなって経験になるので、
日々驚きの連続です。
映像ディレクターをずっとやってきたこともあって、
企画だけでなく演出に携わることもあります。
それについて「なんで?」って
聞かれることもあるんですが、
ディレクターさんと仕事をさせていただくと、
他のディレクターさんはこういうやり方で作るんだと
弟子になった気分半分、
一緒に企画しながらひとつの方向に向かって
一緒に作れるので、
個人的には演出を学ぶ上で
「プランナー」は天職だなって思っています。
―― プランナーの枠を超えている。
と言われることについて
鈴木そもそもプランナーの枠ってないと思います。
自分のやりたいこと、得意なこととの掛け算で
仕事が生まれていく気がして。
自分は映像ディレクターをやったり、
スタートアップや新しいプロジェクトの
立ち上げをお手伝いすることもあるのですが、
そのなかにも必ず企画の要素はある気がします。
フリーランスをしてから会社に入って感動したのは、
なにかを人に伝えるための技術を
アートディレクターやコピーライターなど
分業して作っていること。
そもそも自分はその区分けさえ
よくわかっていなかったので、
びっくりしました。
でも一緒に仕事をしてみると、
アートディレクターだって
企画をするしコピーを書くし、
お互いがちょっとずつ
他人の領域に首を突っ込んでる。
バックグラウンドも異なる人が
そうやって一つの表現を作り上げていく現場って
いいなと純粋に思いました。
一つ屋根の下に
たくさんのクリエイターが仕事をしていて、
日々いいものを作ろうと努力し合っている。
それが会社の良さでもあるなと。
―― 広告の分業で何か戸惑ったこと
あったりしますか?
鈴木企画と演出が分かれてることの必要性は
最近やっと分かってきたのですが、
実際別れてなくてもいいんじゃないかなって
思ったりもします。
たとえば、自分のチームで
ディレクターとプランニングを
一緒にすることもあって、
それがめちゃめちゃおもしろかったりする。
自分の場合は
どっちもやっちゃうこともあるんですが、
それによってクライアントがやりたいこと、
伝えたいことの解像度を一緒に高めながら、
演出をできる利点もある。
自分はいわゆる”代理店”と呼ばれる会社に
所属する人間ですが、
そもそも間に人が入っていることで
いいことってあまりない気がして。
もともとフリーランスの頃は、
ミュージックビデオの企画をして撮影をして
自分のPCで編集して納品する、みたいな
全部ひとりみたいなことも多かったので、
最初は分業することに慣れませんでした。
ただ、徐々に相性の良いエディターや
カメラマンと出会えるようになって、
いまでは絶対に自分一人でやらないほうが
クオリティが格段に上げられることが
明確に分かって、
でも企画と演出に関しては
どうしても僕の中ではかなり近いんです。
ディレクターやプロデューサーの方と仕事をすると、
自身で企画的視点でアイデアを
チームに共有することがあって、
それによってもとの企画が
格段によくなったりする現場をみてきました。
本当に優秀な方ってそういうことなのかなと
思います。
誰が企画したっていいんです。
垣根を超えて、
みんなで取り組んだ方がうまくいく。
―― 広告制作において、働いていておかしいなと
思うことはありますか?
鈴木あまりにも締め切りが早かったり、
打ち合わせが変な時間にいれられちゃったり、
それをよしとしなければいけない
カルチャーみたいなのは以前ありました。
でも最近は一人一人気をつける人が
増えてきた実感もあって、
少しずつ変わってきたなと。
結局みんな先輩がやっていたことを受け継いで
後輩に教えちゃうさがかなと思うのですが、
そもそも疑いながら働かないと、
一方的な要望だけ聞いて仕事を受けちゃうと
体がおかしくなっちゃうので、
「あ、ここは働かないんで」くらいの
強い意志を持たないとなあと思います。
あと、プロダクションや協力会社との
上下関係みたいなのが
異常に強いひとってわりといるんですが、
これもヘンだなぁって思うことが多いです。
プロダクションはなんでもやってくれる人だと
勘違いしているというか。
「受発注の関係」を超えて、
一緒に作る仲間として仕事に取り組むし、
だからこそ相手の都合や健康も敬う。
そういう関係の仕事が当たり前にならないと、
そもそも人間としてどうなんだっていう。
―― 先ほどの
「プロダクションの人が企画出してもいいし」
って言ってくれたことって嬉しい言葉です
鈴木いいチームやCDの仕事って、
やっぱりそこの垣根を越えていくというか、
同じテーブルでみんなで一緒に考えるところから
始めるっていう仕事が多くて。
そういう方が結果的に
いい仕事になったなっていう。
―― クライアントに対して求めることは
何かあったりしますか。
鈴木広告業界をよくすることって、
クライアントとどうやって良い関係を築いて
仕事をするか、に尽きると思うんです。
クライアントのビジョンに感動し、
彼らこそがクリエイターだと思うことがあります。
現場で事業を実際に動かしている人に
リスペクトしかないし、
自分はそういった人の視点を知りたくて、
自分で事業を始めているところもあります。
Hondaさんとお仕事をさせていただくと、
毎回感動します。
会社の中に本田宗一郎氏のフィロソフィが
川のように流れ続けていて、
それに自分も影響を受けることもあります。
たくさんの社員の方のお話を聞きましたが、
「松明は自分の手で」「自分のために働け」など
僕の心の中にずっと残っている言葉が
たくさんあります。
―― 逆に、クライアントとの仕事で
課題に感じることはありますか?
鈴木クライアントがあまりにも熱量がないときは、
萎えてしまいます笑。
これ、まじめにやっても
きっとうまくいかないだろうなって
わかる瞬間があって。
そういうのは悲しいですが、
結局は巡り合わせなので、
これに関してはしょうがないかなと
思うようにしています。
クライアントもひとつのチームとして一
緒に考えるような、そういう仕事が好きです。
もちろんそれぞれに専門領域はありますが、
心を通わせることになにも悪いことはない。
クライアントも、我々を代理店やクリエイターだと
線引きしすぎず、「親友」になれたら最高です。
―― 制作のスタッフに、何か求めることは
あったりします?
鈴木プランナーって撮影現場では
本当に使い物にならないんですよ。
やることがないことも多く。
僕はそれが嫌すぎて、
できるだけスタッフと仲良くなって、
カンペを持たせてもらうところまで
グイグイ踏み込む。
もちろん、撮影の邪魔はしないですが笑。
意外とスタッフの方にまで
その仕事が実現したいことまで
伝わりきっていないこともあって、
そういう話をすると
スタッフのモチベーションも上がる。
なにもやってないひとやサボってるひとがいると
現場の空気が悪くなるんですよね。
どんなに賢く考えても、
それをかたちにする現場を蔑ろにする人は
好きになれない。
現場で人が足りなければ手伝うし、
そうやって自分の仕事に愛着が満ちていく。
―― 鈴木さんみたいに近づいてくれると、
多分スタッフも喜ぶと思います。
鈴木邪魔になってないといいですが・・・。
話してて思いましたが、
プランナーだけやってきた人間だと
なかなか現場でそこまで踏み込めない
かもしれないですね。
僕は映像ディレクションを通して
共通言語が持てるから、
「このカメラ何なんすか」とか聞いても
自然な感じはあるかもしれないですが。
ここからは暴論ですが、
みんな一回ディレクションやったほうがいいと思う。
プランナーであれコピーライターであれ、
一回ディレクターやってみたらいいと思う。
逆にプロダクションの若手PMも
一回企画で入ってほしい。
自分は最近、ロケコーやってみたいなって
結構本気で思うことがあって。
そういうジャズみたいな、
シャッフルみたいなこと、
もっとやってもいいのかもなーとかは
今ちょっと聞きながら思ったですね。
そうすると、もっとみんな自分以外の仕事に
リスペクト持てるようになるのでは。
―― 共通認識ができるのはやっぱり垣根を
超えてやらないと分からないですね。
広告会社のプランナーの人も、
ディレクション一回やってみればいいし、
プロダクションもそうなんですけど、
プランナーを絶対アサインしなきゃ
いけないなとかなくて
自分達で考えた企画をやってもいい。
鈴木そうですね!
最近、本当にありがたいことに
プロダクションやディレクターから
アサインされることがすごく増えています。
「一緒に考えませんか」と言ってくださって。
アサインする側、される側っていう価値観も、
実は思い込みでしかなくて、
本当はもっとゆるく壊せるのかもしれないですね。
―― 話は変わりますが、若手特有の問題って
ありますか?
鈴木最近先輩が優しすぎる問題っていうのも
若手で深刻化していて。
いろいろな改革があり、先輩が後輩に
強くなにかを言うことを拒むというか。
これどの業界でもあると思うんですけど、
それが強すぎてもはや自分のいる意味が
わからなくなったり、
成長できなかったりする若手が多いと聞きます。
居ても無駄、言っても無駄、みたいな。
謎のスパイラルに入っちゃう。
先輩がこれ聞くと「ツンデレじゃん!」って
なりそうですが笑。
―― 上司にもよるかもしれないですね。
鈴木僕の場合は働き方改革が始まって
すぐに入社したこともあり、
上司はみんな確かに異様に優しかった。
だけど、間違っていることや
もっとこうしたほうがいいよってことは
かなり率直に言ってくださる方だったので、
本当にありがたかったです。
僕は企画をたくさん出すというのが
最初どうしてもできなくて、
決めうちで一個企画を洗練させて持っていく
みたいなことをしたんです。
その時に、
「むしろダメな企画を10案持ってきてくれ」と。
つまり、チームで企画する以上、
たくさんの仮説を一緒に検証して、
なにがよさそうでなにがダメそうなのかを
探っていく仕事だとおっしゃっていて、
僕にはその視点で企画したことがなかったので、
めちゃくちゃ納得して。
それ以降、企画を出すことが
わりとスルスルできるようになりました。
自分がダメだと思っている企画の中にも、
他人がみたらいいものもあったりするので、
変なプライドは捨てた方がいいですね。
あとは、若手だからと「待ち」の姿勢にさせず、
ちゃんと「背負わせる」経験を
もっと推進した方がいい気もします。
小さな仕事でも自分がやった!
と実感を持てるものがつくれれば、
自己効力感が上がって
仕事へのモチベーションも上がる。
若手自身も、自分で仕事を作るくらいの気持ちで
一緒にやりたいクライアントに
どんどん自主提案するなど、
勝ち取っていく姿勢があったほうが
結果的に仕事が楽しくなるんじゃないかなと
思う派です。
名前が出て、自分の誇りを持って
出さなきゃいけない仕事
―― 広告業界をキラキラするため、
より良くするために必要なことは
何かありますか?
鈴木やっぱり外から見たら中が見えにくい。
それが一番問題だと思います。
スタッフリストを見ても、
実際誰がどこをどう考えたのかわからない。
仕事の魅力も伝わりにくい。
中から見ると、キラキラできる要素は
いくらでもあるんです。
コミュニケーションを考える仕事って
本当に面白くて、いつまでも続けていきたい。
でも、その魅力が
外にうまく伝わっていない気がして、
単純にもっとオープンに、
自分たちの仕事そのものを
広告すべきだと思います。
裏方で匿名の仕事にせず、
「自分がここをやったよ」って
ちゃんと今の時代にあった形で
発信することがもっと許されてほしい。
ちゃんと名前が出ると、責任が生まれる。
仕事に対する誇りも、
絶対に面白くしてやるぞっていう意志も
強くなるのかなと。
今考えているのが、
もはやYouTuberになっちゃうとかあるのかなと。
アイデアを考え実現することのおもしろさを
いろんな仕事を通してありのままに
発信するだけで、全然状況が変わる
かもしれないなって思います。
みんながそのマインドを持てば、
おのずと業界はキラキラしてくるはず。
言語化が難しいですが、
なんとなく日本の空気自体が、
身内で頑張る人をちょっと嘲笑う感じが少しあって、
頑張る人を応援できない姿勢は終わってると思う。
そういう消極的な空気を
さっさと淘汰させたいですね。
―― 最後に、上の世代に言いたいことって
ありますか。
鈴木さっきも少し話しましたが、
若い世代に背負わせてみるってことを
自覚的にやってみていただきたいです。
「君がやってみなよ」精神が
広告業界をアップデートしていくとおもいます。
実際、自分もある先輩に
そう言ってもらえたことをきっかけに、
仕事がたのしくなりました。
自分で仮説を検証し、
失敗してもそれは発見でしかない。
その体験を早くからやるべきだと思います。
実践からしか学べないことがある。
若手自身も、自分でバッターボックスに立つ機会を
増やしていく努力をしなければいけない。
コンペもいいです。
僕は「劇団ノーミーツ」をはじめたり、
自分でポートフォリオをつくることに
最初は奮闘しました。
そうすることで、周りの先輩にも
「こいつこういうことができるのか」と思われ、
話の種が生まれる。
若手に丸投げしつつ、
分かんなかったら「こうするんだよ」って
言ってくれる先輩。
そういう人たちに自分は育ててもらったので、
そういう先輩がもっと増えると、
主体性を持った若手が生まれていくのかなと
思います。
株式会社電通 dentsu zero
1996年、東京生まれ。
多摩美術大学統合デザイン学科中退後、フリーランスを経て2017年電通に入社。
ブランディング、広告・CMなどコミュニケーションの企画や、MV・映画・ドラマなどの監督を務める。
近年では「劇団ノーミーツ」「映画レーベル NOTHING NEW」など新規プロジェクト/スタートアップの立ち上げに携わり、手がけた作品は文化庁メディア芸術祭優秀賞やロッテルダム映画祭に入選するなど国内外で高く評価される。
- 聞き手/株式会社KEY pro
CEO/プロデューサー
城殿 裕樹 - 記事公開日/2024.4.1