広告主

GO株式会社 平松瞳さんに聞く
「広告業界がキラキラするために今必要なこと」

仕事は、「互いのリスペクト」の上に
成り立つもの

—— まずは自己紹介からお願いします。

平松タクシーアプリ『GO』、
次世代AIドラレコサービス『DRIVE CHART』など、
モビリティ事業を展開するGO株式会社にて、
CC本部(カスタマー&コーポレートコミュニケーション本部)の本部長とマーケティング部を
管轄しています。

—— 平松さんがこれまで携わってきた
広告制作について教えてください。

平松私は新卒でDeNAに入社して広告営業、企画など
さまざまな経験をしましたが、
中でも、マーケティング・ブランディングに
携わる期間が長かったんです。

社外に対するコミュニケーションというくくりでは、
OOH、電車広告、TVCM、Web広告、企業ロゴや
サービスロゴ、ユニフォームや店舗デザイン、
グッズ、販促物、PRイベント…
幅広いクリエイティブに携わってきました。

—— 平松さんは、仕事のどのような場面で
“喜び”を感じますか。

平松仲間が喜んでいる姿を見るのが一番嬉しいですね。

メンバーはもちろん、
パートナーやユーザー、
事業に関わる全ての人を
笑顔にできる仕事がしたいと
常に考えています。

だから、仲間を尊重しない発言や行動は
自分のポリシーに反します。

個人を認めず、役職が上だから“これに従え”と
押し付けるのは違うと思っていて、
この考えはパートナーさんに対しても同じです。

お金を払っている立場だからと
無理な要求をしたり、上から発言をしたり…
主従関係をつけて仕事を進めていくのは
絶対にやめてほしいと思っているし、
メンバーにも常に伝えていることでもあります。

仕事は一人でできるものではありませんから、
お互いのリスペクトがなければ成り立たない。

これはずっと大事にしている考え方です。

“いいもの”を作るのに、
遠慮はいらない

—— 広告の仕事に長く携わっている中で、
これはおかしいと思う点はありますか。

平松“共同作業”になっていないケースが
多くあると思います。

—— 具体的にはどういったところですか。

平松プロジェクト化して役割が決まれば、
チームとして形になっているように見えます。
でも、その中身が“共同作業”になっていないと
ダメだと思うんです。

役割ごとに、「あなたこれで、あなたはこれね」
という風に分けてしまうと、
相手の立場になったり、寄り添ったりすることが
できないと思うんですよね。

最初は尖った良いアイデアだったかもしれないのに、
妥協したり丸めてしまったり、いろんな思惑が入って、
本当にやりたかったクリエイティブから
すごい離れてしまって、広告ができあがった後に、
「みんなが幸せでよかったね」って思える仕事に
ならない可能性が高まってしまう。

広告制作においては、そういった縦割りを
プロジェクトに入れるべきじゃないなと
いつも思います。

—— GOの広告を制作するスタッフとは
どのような関係性なのでしょうか。

平松例えば、
クリエーティブディレクターを務めてくださっている
dofの齋藤太郎さん(以下、太郎さん)は、
私たちに対して、
「もっと深掘りさせてください、聞かせてください」
と言ってくれます。

プロダクションプロデューサーの城殿さんは
「こういう見せ方っていうのは
どういう理由でしたいのかっていうのを、
その意図を教えてください」
って聞かれるじゃないですか。

それ絶対、伝えなきゃいけないんです。
ディスカッションを通じて、
私たちの考えも深まっていくし、
チームとしての信頼も深まっていくと感じています。

感覚的に分かります、という関係になるまで、
すごく時間がかかります。

「伝わっているでしょ」とか
「長年やっているでしょ」ではなく、
知ることや伝えることを省かずに、
丁寧にやっていかなきゃいけない。

クライアントだから、仕事を受けている側だから、
みたいな気遣いは全ていらないと思っています。

成果を伝えることは、
クライアントの責任

—— 平松さんと同じ、
広告主(クライアント)に対して
いかがでしょうか。

平松いろいろなクライアントさんを見ていると、
広告ができた後がもったいないなぁと
思うことはあります。


広告クリエイティブを作った後、
数字や売上だけしか見ていなくて、
おそらく社長や上長に結果が出ましたと伝えて、
自分たちが評価されたかどうかというところで
終わっているのかなと。

それでは、せっかくの素晴らしいクリエイティブでも
点の成果で終ってしまいます。

次のクリエイティブへつなげていく責任があります。

私は一番最初に、広告会社やプロダクションなど
一緒に作ってくれたパートナーの皆さん全員に
結果を伝えるべきだと考えています。

全員で作った広告クリエイティブが
どういう結果につながったのか
ということを伝えないと、
その次につながらないじゃないですか。

『GO』アプリを利用してくださるお客様から、
日々たくさんのお問合せをいただきます。

広告クリエイティブを全ての仲間の皆さんと一緒に、
もっともっと深く作り上げていくためには、
クライアントだから得られる反響や生の声も
しっかり伝えていく必要があると思っています。

—— そういったフィードバックをもらえると、
目線を合わせて同じゴールを向いて
仕事をすることができますね。

平松広告づくりの課程において、
納期やKPIを伝えるだけではなくて、
GOはどういう世界を目指しているのか、
一人ひとりの社員はどういう思いで
サービスを作っているのか、
ユーザーからはどういうことを期待されているのか…
そういった数値化できない価値観や感情も
しっかり伝えていく必要があると考えています。

クライアントは、自分達のサービスに
仕事人生のほとんどを使っているわけなので、
そのサービスの良さやサービスに対する思いを
一番伝えられると思っていますし、
一番のファンじゃないといけないなって思います。

—— 「クライアントが強い」という
イメージがあります。

平松そうですよね。

これまでの歴史の中で
「クライアントにこれは言わない」
「言われたことは絶対」…といった雰囲気が
醸成されているのかもしれないけれど、
私はそれを思い切り壊したい(笑)。

—— 制作スタッフに対しても同じ考えですか?

平松もちろんです。

クライアントと制作スタッフが
顔を合わせる場面は少なくて、
実際のところ撮影現場ぐらいしかありません。

だからこそ、その少ない時間で
気づいたことがあったら
遠慮なく伝えてもらいたいと思っています。

太郎さんが制作スタッフの方との顔合わせの会を
設けてくださったことがあったのですが、
そのときはみなさんとゆっくりと話ができて
とても嬉しかった。

「ここは僕らがこだわったところで・・・」
「これを表現するには、
もう少しこうできるといいですよね」など、

良い広告を作るためのエピソードを
たくさん聞かせてもらえて、
本当に楽しかったんですよね。


その時の気づきは今も活かされています。

—— 同じゴールを目指す「チーム」なんですね。

平松そうです。
そこに主従は必要なくて、
常に対等であるべきなんです。

私が怖いなと思うのは、
クライアントが“裸の王様”になってしまうことです。

クライアントも成長していかなければいけないのに、
周りから改善点を教えてもらえなければ
どんどん停滞していってしまう。

すごく嫌です。

それぞれを尊重し、
互いに上を目指せる関係でありたいと思います。

たった1回のオリエンテーションで
「あとは汲み取ってください」
「そこを理解するのがプロダクションや
制作スタッフ…」と丸投げするのは違う。

本音で話をしてもらえる関係を作るために、
クライアントとしてできる“歩み寄り”があると
思っているんです。

お互いのために本音を伝え合いたい

—— 広告会社に対してはどうでしょうか。

平松仕事に向かう時の気持ちの距離感が
時々広告会社さんだけ少し違うかなって
思うときがあります。


仕事をしている時は、
私たちの担当ではいてくれているんですけど、
やっぱり“担当”という感じなんですよ。

—— あくまで、“担当”ということでしょうか。

平松そうですね。

担当は変わりますし、言えないことは
いろいろあると理解はしていますが、
もっと本音でコミュニケーションしてほしいなと
思うことが多いです。

たとえば、太郎さんの会社の場合だったら、

「他社の案件が重なっていて、
dofは10人しかいないのでリソースがやばいです!」

みたいなことを伝えてもらえれば、

「今はGOに時間をかけなくていいですよ!」

「忙しいんですね、このタイミングでCMを作りたい
と思うんで、そのときはよろしくです!」

と言えるじゃないですか。

「広告会社やプロダクションの時間を
全部私たちに使ってください」

みたいなクライアントはないはずなので、
そういった背景や事情を伝えてくれないまま
連絡が滞るよりは、広告会社として何が欲しくて、
何を優先したいのかを共有してくれると嬉しいです。

—— なかなか言えない部分ではありますよね。

平松きっとそうなんだろうなと思うので、
「数字が欲しいんですよね?」
って聞くようにしています。(笑)


「欲しい」って言ってもらったほうが
分かりやすいんですけど、
それを言わないようにしている広告会社さんは
信じられないんですよ。

—— ストレートに聞かれるんですね!

平松阪神電鉄さんは『GO』アプリの広告を
たくさん掲出してくれているんですけど、

聞いてみたら、
「あなたたちよりもコンスタントに、大量に
出稿してくれるクライアントはいるけれど、
『GO』アプリが最高で、クリエイティブがかっこいい。
あれが自分たちの電車に貼られているっていうのが、
自分たちのモチベーションにも
プラスになると思ったから来ました。
お金がほしいからきたのではありません」

と、はっきり言ってくださったんですよね。

—— 素直にパンと言えるかどうか
って事なんだろうな

平松そうですよね。

そういった意味でいうと
信頼できる広告会社さんや
プロダクションのみなさんは
私たちクライアントの目の前で、
ガンガン言い合ってます(笑)。

そういう場を見せてもらったほうが、
私たちとしてはやりやすいなって思いました。

制作スタッフともっと対話したい

—— プロダクションに対して何かありますか。

平松プロダクションのみなさん、
仕事に対して真っ直ぐで
ものすごく尊敬していて
個性あふれる人柄含めて大好きです。

ただ、遠慮を感じるので、
もっとガンガン来てほしいって思います。

素晴らしい広告ができるのは、
プロダクションの方がお金じゃない価値を、
このクリエイティブを、
この広告を一番良いものに仕上げるんだっていう、
測ろうと思っても測れないものじゃないですか。


私たちの広告を最高に良いものに
作り上げるぞって思ってもらえているのに、
変な気遣いのような必要じゃないものは
排除してほしいし、必要なものは教えてほしいです。

—— プロダクションが謙虚なのは、
やはり広告会社さんの手前ということも
あると思います。

平松それを分かってくれるクライアントかどうか、
というところはありつつも、
関係値があるところなら
もっと挑戦してもいいかもしれません。

プロダクションの方が
謙虚になりすぎちゃっている部分が
ある気がします。

やっぱり、共同作業で進めていくときに、
一番重要なのは制作スタッフさんだと
思っているんですね。


誰か一人が気持ち良くなって、
他の誰かがやりたくないことを
ずっと犠牲でやっているみたいな現場って、
絶対いいものを生み出さないと思いますし。

クライアントだけが気持ちよく、とかもイヤですし。

クライアントから名刺をもらっても、
何をしている人なのか分からないでしょうし、
そういう状態で
最初から心を開いて話せるわけはないので、
もう少し制作スタッフさんとの
コミュニケーションの時間を持ちたいな
と思っています。

忙しそうなのは分かりつつ、
現場でちょっと話しかけたりしています。

そういう意味で、クライアントとしては
制作スタッフさんをめちゃめちゃ尊敬
応援しているし、
なんか遠慮しないで言ってね、
みたいなことはすごく思っています。

あとは、GOのここを良くしてほしいとか
サービスへの声も、もらえるとすごく嬉しいです。。

とにかく、対話したいですね。

クライアントも成長しなきゃいけないのに
インプットをもらえないから、
だんだん裸の王様になっていく会社も
多いと思うんですよ。

でも絶対インプットをもらったほうが、
最終的に一番良いものを生み出せると思います。

信頼関係を持って、
「ここが良くなかったよね、でもここは良かったよね」
って伝えられると、
お互いを尊重し合えるのだと思います。

それぞれが最大限に力を発揮できる
関係でありたい

—— 「全員が対等であり、本音で話ができる環境」
からは、どのような変化が生まれると
思いますか?

平松“良い広告を作ろう”という
想いを持った人たちが集まって、
その想いを存分に発揮できる環境があれば、
これまでとは“レベル感の違うもの”が
生まれると思います。

プロジェクトが動き出し、
それぞれの役割が決まる中で
「枠」を決めてしまうのではなく、
良い広告を形にするために
「100%の想い」を最後まで貫くことができたら…
きっとものすごい広告が生まれる。


企画提案していただくときに、
「どや!」っていうくらい、
「この企画、最高だ!!」って
言ってもらいたいなって思います。

私は、提案いただいた広告を見るとき、
“宝物”を紹介してもらっていると思っていまして。

「このメンバーが本当最高で!」とか、
私たちが知らなかったり、
分かっていなかったりすることを
もっと肉づけしてもらえたら、
そこから生まれるコミュニケーションで
広告にも絶対返ってくるものがあると思うんです。

—— “宝物”と言っていただけると嬉しいですよね。

平松クライアントから、
「すごい幸せを生み出してもらってるよ」
と伝えられたら、
すごく広告業界にとってポジティブだろうし、
きっと空虚に感じるような広告が
淘汰されていくと思うんです。

アプリを作った私たちだけが、
『GO』アプリの成長を喜ぶわけじゃなくて、
「みんなで作り上げているから
関わった人たち全員の成果だよ」
っていうところを共有していかないと。

絶対一人では出来上がらないものが広告なので、
すごくそこに価値を感じているんですよね。

「ありがとう。こういう結果になったよ。
こんなふうに喜ばれたよ。」と、
ちゃんと感謝の言葉として伝える
っていうことをセットにすれば、
全員がやりがいを感じながら
働けるんじゃないかなって思います。

—— GOといえば、「どうする?GOする!」の
TVCMでおなじみですが、
この広告も
そういった環境から生まれたのでしょうか?

平松そうなんです!

GOのTVCMはプロダクションのみなさんと
お互いに信頼してプロジェクトを進められている
と感じていますね。

2021年初めてTVCMを制作するとなった際には、
GOの魅力を伝えるクリエイティブは何か?
と…クライアントとプロダクションではなく、
“パートナー”として考え抜いてくれた姿が
記憶に残っています。


その後も、数々のTVCMを制作いただきましたが、
私たちの要望を全て受け入れるのではなく、
言いにくいことも伝えてくれて、
最後までとことん話し合う。

撮影を重ねるごとに、
“全員で最高のものを作り上げるぞ”
という熱気が高まっていると感じます。

—— チーム一丸という言葉がぴったりですね。

平松そうですね。

撮影に至るまでの道のりは
めちゃくちゃ濃密です(笑)。

完成した作品を見たときは、
クライアントとか制作担当とか関係なく
一緒になって“良いものができたこと”を
喜び合っています。

広告主、広告会社、プロダクション、制作スタッフ…
全てのプロジェクトに関わるメンバーが
互いにリスペクトし、同じ想いを持って取り組む。

それが私の理想のあり方ですし、
その積み重ねによって、
“キラキラした広告業界”がつくられていくのだと
思っています。

—— 他にもあれば教えてください。

平松もう一つ、子どもたちが撮影現場を見る機会を
クライアントとして作れないのかなっていうのは
すごく思っています。

—— 何かきっかけがあったんですか。

平松テレビCMの「GOする!日差しの強い日編」を
小学生ぐらいの兄弟が真似して、
動画を作ってYouTubeに上げてくれていたんです。

きっと「こういう映像を作りたいな」っていう
強い思いからきていると思うので、
そういう子たちの思いをもっと増やしていけたらと。

広告業界の人って、やっぱり娘、息子から
「お父さんお母さんの仕事かっこいいね」
って言われるような機会っていうのを
増やしたりとか、志す人を増やすみたいなものは
増やしていけるし、それがモチベーションに
なったりするじゃないですか。

かっこいい!って思われる仕事をやっている・・
みたいな。

子供たちの目に見られてるよ、
とかは、学生さんでもいいんですけどね。
見られてるっていうのは、
みんなシャキッとするというか。

—— 子どもたちにとって、撮影現場の
「本番!用意!スタート!」は面白いですよね。

平松めちゃめちゃ面白いと思いますよ。

ああいうピリッとした雰囲気も
子供なら絶対感じ取りますし、
すごい経験になると思います。

そういうのも含めて、
広告業界のいろんなシーンを見て、
感じて、繋げていけたら
さらにすごいことになるんだろうなぁ
とは思ってますね。

—— 平松さん、ありがとうございました!

平松 瞳(ひらまつ ひとみ)

GO株式会社 執行役員 CC本部 本部長
高専卒、早稲田大学大学院卒業後、2008年新卒でDeNAに入社。 勤務12年で11部署異動、営業・企画・マーケティング・コーポレートブランディング・横浜DeNAベイスターズの立ち上げなどを経験。 2020年4月よりGO株式会社(当時 株式会社Mobility Technologies)に転籍。 渉外・マーケティング責任者、CC本部 本部長を経て、2023年9月より現任。 二種免許も取得し、遠目からでもどこのタクシーかわかるほどタクシーマニアな2児の母。
インタビュー記事:新執行役員 平松 瞳の信念|階層にとらわれない。“全員参加型”の組織をつくる

  • 聞き手/株式会社KEY pro
    CEO/プロデューサー
    城殿 裕樹
  • 記事公開日/2024.2.1
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