
株式会社ツムラ 宮城英子さんに聞く、
「広告業界がキラキラするために今、必要なこと」
広告という手段を通して、
よりよい社会のために発信できる、
もしかしたらそれが社会を変える
一歩になる
―― 自己紹介からお願いします。
宮城大学、大学院と薬学でした。
企業との研究が多い研究室だったため、
その研究が患者さんや、社会へどう役立つかという
観点での議論も多く、
このことは、私自身の現在の仕事にも
大きく影響しているように思います。
最初にツムラへ就職した時は研究所に配属されて、
六年間いました。
ちょうど20代の後半に差し掛かり、
だんだん自分自身が頭痛やPMS等といった
体調不良を感じることも増えてきました。
研究では、実験をする時は立ち仕事も多いのですが、
体調がなんとなく優れない時期と重なると
体調不良を抱えながら働くことの大変さを
考えるようになりました。
そんな時は、弊社社内の先輩等に
教えていただいて、クリニックを受診することで、
必要に応じて漢方薬を処方してもらったり、
生活上の工夫をアドバイスいただいていました。
そのおかげで、それ以降も
私自身はライフステージが変わって
ライフイベント等があっても、
幸い、それほど深く不調に悩まされることなく
仕事を続けることができました。
ただ、実際には多くの方が様々な症状や
病気を抱えながら仕事等をして大変な状況にあり、
それに対して何かできないかと考えていました。
また、本当に必要としている人には、
漢方についても知ってほしいという気持ちも強くなり、
今の部門に異動して現在まで
コーポレート・コミュニケーション部門で
16年過ごしています。
―― 長いキャリアになりますね。
宮城そうですね、組織変更などもありながら、
それくらいが経ちました。
部門の人数が多くないので、広報職と言っても
広告宣伝や企業広報、PRに加え、
疾患啓発として生活者向けセミナーの企画等を
経験してきました。
最初の頃は特に若年層女性を対象とした
啓発セミナーの企画も担当しており、
主催社となる各地域のメディアの方や、
広告代理店の方と取り組んでいました。
主催社となるメディア側の方々では、
ご自身や身近な方で不調を感じながら
働いている女性がいるケースもあり、
セミナーを通して伝えたいことを
自分自身の経験も含めて話をすると、
すごく共感してくださり、その思いが通じた時には
セミナー自体もとても良い結果につながったと、
手ごたえを感じていました。
また私自身も子どもが2人おり、
自分自身の経験としても、女性は特に妊娠、
出産や月経関連症状やその先には更年期症状等と
ライフステージと共に様々な症状と向き合いながら
仕事をしていかなければならない大変さがあり、
課題は様々ありますがその一つとして、
健康を管理することも女性自身のライフや
キャリアの継続において非常に重要だと
実感しております。
そういったことも、多くの方に伝えていきたい
という気持ちが強くあります。
―― ツムラさまの企業方針とも
合致するところがありますね
宮城はい。
弊社は婦人薬 「中将湯(ちゅうじょうとう)」の普及に
努めながら、一人ひとりの心身の調和に寄り添い、
活力ある心豊かな社会をつくることを志して
創業しました。
女性の健康に貢献するということは、
弊社の理念とも通じます。
このような背景もある中で、
企業ブランディングの観点から
生活者との良質なリレーションを築くために、
コミュニケーションをどう進めていくか、
という課題が持ち上がり、
電通PRさんとご一緒することになりました。
はじめの一年をかけて、
調査や分析を重ねながら議論を進めて
新しいプロジェクトを立ち上げました。
それが「#OneMoreChoice プロジェクト」です。
2021年の国際女性デーにローンチしました。
このプロジェクトは、現在は生理・PMSの不調を
誰もが我慢しなくていい社会を目指すものです。
症状やそれによるつらさは多様であり、
その人にとって心地良い
“我慢に代わる選択肢(#OneMoreChoice)”は、
その時々、人それぞれ。
一人ひとりに合った#OneMoreChoice が
選択できるが選べることで、
誰もが生理・PMSを我慢しなくていい社会を
目指すという考え方を前提にしています。
これは会社のパーパス
「一人ひとりの 、生きるに 、活きる。」にも
しっかり紐づいているものです。
また、私自身も仕事だからやっているというよりも、
個人としても、前述のようなこれまでの自分の経験、
悩みを通して、今も困っている女性、
辛い状況にある女性にとって、
少しでもよりよい社会にしていきたいという
思いを込めて取り組んでいます。
これは私だけでなく、
プロジェクトに関わるメンバー皆が
本当にそう思って取り組んでおり、
皆で非常にやりがいを感じながら進めています。
調査などを通して「隠れ我慢」※1という言葉とともに
プロジェクトをローンチしましたが、
この言葉は本当に多くの共感の声をいただきました。
またプロジェクトムービーも公開していますが、
見ていただいた女性から
「もらい泣きしてしまった」などと
お話してくださる方もたくさんいて。
それだけ不調症状に対して我慢を抱えている女性が
たくさんいることを改めて感じた次第です。
※1:隠れ我慢とは、心身の不調を無理に我慢していつも通りに
仕事や家事を行うこととツムラで定義。ツムラの登録商標。
―― プロジェクトの話をもう少しお伺いします。
宮城プロジェクトが始まって5年目になります。
1年目は「女性の8割が隠れ我慢を抱えている」という
問題提起からスタートしました。
そして、2年目には「違いを知ることからはじめよう。
#わたしの生理のかたち」というメッセージと共に、
生理・PMSによる症状は多様で、
それによる感じ方も一人ひとり違うということを
打ち出しています。
どれもプロジェクトとして目指す社会や、
弊社のパーパスに基づくと共に、
調査も行い企画しており、
これは3年目以降も毎年同じです。
ありがたいことにこのプロジェクトで発信した
メッセージは様々な広告賞※2をいただきました。
潜在的な問題を浮き彫りにしたこと、
症状によるつらさの多様性を投げかけている
といった評価もいただきました。
これほど賞をいただいたことは
大変有り難いものですが、
それ以上にこれらを通して、このプロジェクトや
投げかけるメッセージに共感してくださる方が
増えることがとても嬉しいです。
そして5年目に入った今も、
ローンチから変わらぬ思いで、
生理・PMSによるつらさを我慢しなくていい
社会づくりを目指して皆で取り組んでおり、
その一環で生理・ PMSを テーマとした企画展
『違いを知ることからはじめよう展』を開催しました。
※2:第2回 日経ウーマンエンパワーメント広告賞 日経特別賞、第69回 朝日広告賞 準薬品・化粧品・トイレタリー部門賞、第70回日経広告賞 食品・医薬品・生活用品部門「優秀賞」、第75回広告電通賞「SDGs特別賞」
―― 今回のイベントもご一緒させていただいた
私個人は男性の立場ですが、
体験したあとの学びのレベルが違うものだと
確信した次第です。
そんな中、長くお付き合いさせていただいて
おりますが、広告会社や制作会社などに対して
良かったことだけでなく、
率直にこういったところはもっと、改善できる、
などもあると思います。
そこらへんについてお聞きできますか?
宮城広告主の立場とすると、
単発で広告を掲載した後の短期的な評価ではなく、
継続的に生活者とリレーションをとりながら、
発信したメッセージが年間で
どの様に生活者に届いているかを把握し、
次に活かしていくようなコミュニケーションを
課題としていました。
限られた予算の効率を高めるため、
全体的な視点で年間計画を立て、
各情報発信が相乗効果を高めるように
組み立てることで、成果を積み上げていく仕組みを
作りたいということもご相談しました。
そのため、情報発信は広告だけでなく
PRの視点も含めて行っています。
情報の流通、メディアや生活者の反応なども
踏まえながら、広告のほかメディアへの情報発信、
SNSや自社コンテンツなど適切なタイミングで
適切な手段を組み合わせるというような
全体的な考え方でこのプロジェクトを進めるに
あたり、継続的にご一緒していただいています。
このプロジェクトは立ち上げから
ずっとご一緒いただいていますが、
メンバーは20代から40代の方々が殆どです。
このプロジェクトを進める上では、
すごく長い時間ディスカッションを重ねる
特徴があり、それは1週間に1回
2時間でも足りない程です。
社会課題をテーマに、生活者に対して
コミュニケーションするものなので、
多様な視点を持ってメッセージを発信することが
重要です。
議論のなかで社会人1年目でも
20年目でもフラットに違う意見が出せたり、
皆で聞きながら活かしていくことが
大切だと思っています。
仮に、偏った視点だけが強くなってしまうと、
場合によっては独りよがりなメッセージとなり、
結果的に生活者や社会に受け入れられない
コミュニケーション、広告物になってしまう。
そうなれば、中長期の視点でみれば
そのプロジェクトは、消えてしまうものだと思います。
制作する際には専門家がいると思いますが、
その専門家だけで作るのではなく、
皆でゴールに向かってワンチームになる。
多様な人の意見を入れる、
そのような事が可能な環境こそ、
今の時代に必要なのではないかと思っています。
広告やPRのコミュニケーションでは、
コアターゲットを設定すると思うのですが、
一方で、その広告物はターゲット層でない方々の
目にも触れることを絶対に忘れてはいけない
と思っています。
だからこそ多様な視点が必要です。
特定の属性の方々に届けたいけれど、
その他の方が目にした時にも不快に感じないか、
意図が伝わりにくくないか等についても、
広く発信する立場として踏まえる必要が
あると思っています。
―― 特にツムラさんとのお仕事では
弊社の若いメンバーも
忌憚なく
意見をさせていただいているかと思います。
そして特徴的にツムラさんからは
日々「検証してほしい」という言葉をいただく
気がしていますが、
そこはいかがでしょうか。
宮城言ってますか?
そうか、そうですね、発信するメッセージ、
広告物に対してあらゆる目線でチェックして、
様々な人の受け止め方等を検証することは
大事だと思っています。
また、弊社の経営理念には
「自然と健康を科学する 」を掲げていますので、
根拠やエビデンスに基づいて情報発信する
ということも基本としているからかもしれません。
―― とてもわかりやすいお話でした。
改めてご一緒している中でも
気づきがありました。
ありがとうございます。
最後に、このインタビューのテーマになります、
「広告業界をキラキラさせるために必要なこと」
は
なんだと思いますか?
宮城正直なことを言えば、
このインタビューの依頼をうけるまで、
広告業界で働かれている方は
とてもキラキラしてるようにしか見えなくて。
ですが、今回の依頼をもとに、改めて考えてみました。
CMを作る、広告物を作るという考え方も
あるかもしれないですが、
広告という手段を通して、
よりよい社会のために発信できる、
もしかしたらそれが社会を変える
一歩になるというふうに考えると、
それって実はすごい価値がある魅力的なこと
なのではないかなと考えています。
今は、企業や商品を選ぶ際に、
企業姿勢などもしっかりチェックすると聞きます。
よりよい地球環境、社会のために思いを
個人のSNSなどで発信することもできますが、
広告という手段を使うことによって、
より大きく社会にインパクトを与えながら
自分の思いを社会に対して形にできる。
それは、とてもエネルギーがあるし、
やりがいがあるのではないかな、と思います。
これから広告業界を目指す方や、
広告業界にいる若手の方々には、
広告を通して社会に対して与えている影響、
というところまで感じていただけると、
とてもやりがいがある業界ではないかな
と感じています。
もう一つは、今の時代、
多様な視点で発信物を作っていくことが
重要だということ、つまり多様な働き方に
対応していくっていうことが
すごく重要ではないかなと思っています。
今は大手の企業を中心に
働き方改革も進んできているとは思いますが、
働き続けやすい働き方を皆が選べる環境づくりは、
小規模な企業も含めて進めていく必要がある
と思っています。
広告業界に限らずではあると思うのですが、
特に若手は新しい価値観、
一人ひとり様々な価値観を持って
社会に出てくると思います。
若手でも、どんな状況にある方でも、
どんなバックグラウンド、キャリアでも
誰もが自己実現につながるような、
柔軟な働き方ができるように進めていくことが
重要だと思います。
そのためには広告主側も一緒に取引する皆さまが
色々な働き方ができるよう、理解して、
お願いの仕方や考え方を変えていかなきゃ
いけないと思います。
―― 今2つ目で言っていただいた業界の特性とか、
その構造を理解することが大事だ
っていう話は、
まさに広告主側で
長く携わっている宮城さんだからこその
お話だな、と感じました。
ありがとうございました。

株式会社ツムラ
経営統括本部 コーポレート・コミュニケーション部
コミュニケーションデザイン課 課長
2003年に株式会社ツムラに入社。研究部門を経て、2009年から現在までコーポレート・コミュニケーション部門でPR、宣伝業務に従事。社会課題をテーマとした#OneMoreChoice プロジェクト、疾患啓発を目的としたPRプロジェクト等を複数立ち上げる。
プライベートでは二人の小学生の母。薬剤師、PRSJ認定PRプランナー、キャリアコンサルタント(国家資格)。
- 聞き手/株式会社電通PRコンサルティング
第3PRソリューション局1部 コンサルタント
生井 達也 - 記事公開日/2025.8.1