広告主

LINEヤフー株式会社 永田佑子さんに聞く
「広告業界がキラキラするために今必要なこと」

―― 自己紹介からお願いします。

永田永田佑子と申します。
LINEヤフー株式会社のマーケティング統括本部
という所で、マーケティング・プロモーション領域を担当しています。

―― 昨年はLINE社とヤフー社の経営統合
ということで大きな節目を迎えられたと
思うのですが、
その際の永田さんの業務内容を
教えて頂けますか?

永田多岐に亘りましたが最も根本の部分で言うと、
そもそも社名をどうするかということから
取り組みました。

LINEとヤフーの認知率は非常に高く、
また経営統合したからといって
提供するサービス名称が変わるわけではありません。

そんな状況下で法人という”箱”が果たす役割は、
IRでのコミュニケーションが一番大きいので、
何のサービスの会社かというのが
端的にわかりやすい方が良い。
それでLINEヤフーにしようという話になりました。

そこからロゴを決めたりブランドコミュニケーションの
設計をしたり、そういう部分を構築していきました。

―― 永田さん個人としては、
どういうキャリアを積んで来られたのですか?

永田一番長く携わっているのは
マーケティング・プロモーションの領域です。
前々職の楽天ではプロダクト責任者として
マーケも管掌にありましたし、ロレアルも同様です。

今のLINE、ヤフーやPayPayもそうですが、
世の中に新しい価値を生み出すサービスの
プロモーションにずっと携わらせていただいてきて、
それが何よりやりがいで楽しいです。

あっという間だったなという感じです(笑)

私はプロモーションやクリエイティブの
プロフェッショナルではなく、
事業会社側の立場で、新しい価値を
どうやって生み出して使っていただくか
というミッションのもと働いています。


だから「こういうことをやってみたら面白いかも」
という考え方だけではなく、
「これをやるとこのターゲットが何%ぐらい動くか」
という仮説を立てて、
それが細かければ細かいほど
当たった時の気持ち良さがあるという、

常に仮説ありきの仕事をしています。

「ラブレター」という言い方をよくしますが、
広告とかプロモーションって
どういう人をどう口説くか、
何を伝えたいのか、
どのぐらいの人の心が動いて
アクションを起こすのか、みたいな部分が重要で、

クリエイティブ表現は皆さんの領域の方が
創造してくださいますが、
それが世の中の3%を狙っているのか、
あるいは50%を狙っているのか。

狙いと仮説を立てるのも同じくらい重要だと
思っています。

もちろん仮説以上の結果が出るのは
ありがたいことなんですが、
どちらかというと予想外の喜びよりは、
仮説がどこまで細かく当たったか、というのが、
やりがいに繋がっていると思います。

―― 仮説に加えて広告物をつくる際に
重視していることはありますか?

永田なぜそれがTVCMなのか、新聞広告なのか、
デジタルなのかという理由は
全てKPIで分解できるので、

クリエイティブで何秒どのくらいのことを言う、
みたいなエッセンスを常にアウトプットからの
逆算で考えています。


例えば「超PayPay祭」というキャンペーンの
コミュニケーションに関して言うと、

PayPayとヤフーが同じグループの
サービスであるということを知らない層にも
見られるTVCMでは
「超PayPay祭、ヤフーから!」ときちんと言う。


その上でヤフーのトップページに動線を張って
PayPay祭に参加してもらうという流れを
予め設計します。
だから設計の中で
CMの最後のナレーションで何を言うかが
重要になってくる。

CMのトーンや表現はプロのクリエイターさんの
ご意見を極力尊重しますが、
その前の「誰に何を伝えるか」を最も考えます。
それに対してHOWやクリエイティブがあると
思っています。

もちろんクリエイティブやメディアプランが
とても大事なものだということは理解しつつ、
その前段階のエッセンスを常に気にする
という感じですね。

―― そんな永田さんが広告作りの現場スタッフと
どんなふうに接点を持ち、
具体的に
どういう作業でご一緒する局面が多いですか。

永田そうですね、広告づくりの現場という意味では、
デジタル広告・TVCM・新聞広告・OOHの制作には
一通り関わらせて頂いています。


認知いただくことがゴールなのか、
購入いただくことなのか、あるいはどちらもなのか、
というような部分を設計し、
その上で広告会社さんへ
調査データを基に「今回こういう戦略でこういう人に
これを伝えたい」という相談をさせて頂きます。

―― オリエンという工程が、永田さん側にとっては
ひとつのピークだったりしますか?

永田ある意味そうかもしれません。
広告会社さんだったり制作会社さんと
一番密に話すのはオリエンの時なので。

―― その議論は広告会社のクリエイティブと
直接お話しになるのですか?

永田そうですね、クリエイティブ担当の方と
直接話すことが多いです。
現場には結構お邪魔させて頂いている方
なんじゃないかと思います(笑)

―― そういうとき広告業界の人たちの働き方を
見ていて、違和感など抱く事はありますか?

永田もちろん業界的に文化が違う部分もあると思うので
一概には言えませんが、ただ俯瞰で見たときに
価値観のアップデートがされていない部分が
あるなとは多少感じます。

―― 価値観のアップデート?

永田はい。
個人的には、大きく二つ価値観のアップデートが
必要だなと感じることがあります。

一つは変化への適応力です。
広告制作者さんという存在は、事業会社と
社会の間に立ってコミュニケーションの
橋渡しをする役割を担ってくださっているのですが、

社会で非常に多様な価値観が生まれている中で、
広告の制作現場って昔ながらの価値観を是として
動いているように見える時があって、

そこが消費者の感覚とかけ離れてしまうと、
世の中とズレてしまう可能性があるかな
というのを感じますね。

―― 具体的に何か思い出す事はありますか?

永田そうですね。
例えば「前例がないので交渉できません」
というようなことがよくあります。

「もう消費者はそんなこと気にしないのに」
というようなことでも、前例の有無が基準になる。
「今の新しい価値観でいうと、これもありだよね」
ということが通らない。

社会に合わせにいくのではなく、
前例に合わせにいっていると感じる時があります。


あるいは、若者=下働きという価値観が
無意識に働いてるシーンも見かけます。

で、過去に有名な広告を作った人が真ん中にいる、
というような図式が独特だなと感じます。

あまりIT業界にはない気がします。

―― 重鎮やビッグネームには実績や
安心感があって通りやすいということは
ありそうな気がしますが。

永田その感覚は我々の業界には特になくて
「いいもの持ってきた人が勝ち!」みたいな感じです。

もちろん、過去のご実績の中で
「こういうジャンルの表現が得意な方」
ということを理解することはできるのですが、

いい広告を作ったことがあるからといって、
私たちの広告がいい広告になるかはわからない
と思うんですよね。


それって対象の商品、ターゲット、キャンペーン内容、
クリエイティブ、メディアプラン、さまざまな条件が
合わさっていい広告になっていると思うので、
その要素を一個だけピックアップされても、
それが自社の広告でベストになるかどうかは
わからない。


逆に言うと、ニュートラルに捉えて見るからこそ、
改めて重鎮の方から勉強させていただくことが多く、
さすがだなと思う事もたくさんあります。

大切なのはニュートラルな感覚で受け止める事だと
思うのですが、
広告業界の人は
「大御所を連れてきました!どや!」
となりがちかなと思います。

―― なるほど。それが一つ目。

永田はい。
二つめは、これも私がIT業界にいるから感覚が
他の事業会社さんと違うかもしれないのですが、
広告会社さんや制作会社さんと事業会社の
関係性の変化についてもアップデートが
必要なのではないかと感じています。


昔は「受発注の関係」みたいなものが
あったのかもしれないですが、

「私たち事業会社側がどう思ってるか、
会食で聞かせてください」
みたいなコミュニケーションをされると
びっくりしてしまいます。

大切なのは有意なパートナーシップの関係を
作れるかどうか。
お互い向き合うのではなく、
横に並んで社会と向き合う、
そんな関係であるべきなので、
そういう昔っぽいコミュニケーションをされると、
ちょっとびっくりする時があります。

―― でもまだ多いですよね、きっと。
そういうコミュニケーション。

永田もちろんコミュニケーションはすごく大事なのですが、
そういう場で「永田さんは何を求めてますか?」
みたいな議論ではなく、
むしろ「私じゃなくて、
社会が何を求めてるか議論しましょう」っていう
感覚なんです。


あらゆる価値観が存在する社会に
向き合わなければならないのが現代です。
そんな中で常に信頼関係があって、
私たちのサービスが今どういう価値を
世の中に作り出せているか、
これから作り出すべきか、
を一緒に考えてくださる、あるいは私たちのことを
理解していただいている方のほうが、

クリエイティブの話も進みが早いし、
自然と会話の内容も「そういう価値を生み出すためには
こういうコミュニケーションがいいんじゃないか」
というような建設的な議論になっていきます。

だからこそ、日頃からのパートナーシップが
すごく大切なんだと思います。

議論できるパートナーが欲しいんですよね。
なので「オリエンして予算がいくらで
どっちが競合勝ちますか」みたいなフロー自体が
辛いなと思う時があります。

―― 競合というお話が出てきましたが、
競合プレゼンの企画作業は、制作側からすると
かなり労力がかかる作業ではあるのですが、
事業会社側にとって、競合させるのは
どういう理由が大きいですか?

永田自分たちに自信がないからというのは
あると思います。

私もうちのチームメンバーも不特定多数の
1ユーザーでしかなく、その感覚が
絶対に正しいという事もないし、
チーム30人でプロジェクトをやっていれば
30人それぞれの意見があります。


全員が違うことを思っている中で、
社会にこの石を投げたらどんな反応が来るかな
っていうのを、1案だけでやる自信が
なかなか持てない。


制作する側の皆さんからすれば
「我々を信用してください」とお考えになるとは
思うのですが、
その感覚は分かりつつも、
一歩間違えば思い込みでしかないかもしれない自信で
ビジネスを進めてしまうと、
すぐに淘汰される
厳しい世界でもあるので、
常にいろんな人の意見を聞き、調査もかけて、
世の中に耳を傾けるために競合という形をとる
場合がある感じです。

―― ありがとうございます。
働き方という入口から広がって、
いろいろなお話を伺えました。
では本線に戻って次の質問ですが、
広告会社・クライアント・プロダクション・
スタッフの方々に
求めることって
何かありますか?

永田私たちのマーケティング統括本部は
Mission、Vision、Valueを定義して
スタッフと共有しているのですが、
Valueとして「超高解像度、俯瞰と横断、
PDCAC(PDCAをClearに)、スピード」の
4つ掲げています。

その価値観を共有しながらご一緒できると
ありがたいなと感じます。

例えば一つめの「超高解像度」。

ユーザーの見ている景色は変わっていきます。
3年後、5年後って世の中どういう価値観に
なっていくんだろう?どういう技術進歩が
あるんだろう?

翻って今消費者はどんな景色を見ていて、
どんな潜在的なインサイトから
そのアクションをとっているのか?というのを
具体的に細部までイメージすることのできる
人材でいようという話をしています。
ユーザーが置かれたシチュエーション、
景色まで超高解像度で考える姿勢です。

二つめは「俯瞰と横断」。

ユーザーのニーズや市場を俯瞰してみて、
例えばここにABCっていういろんな機能あって、

作り手はBを推しているかもしれないけど、
世の中的にはCがめちゃくちゃ刺さる訴求なんです、
なぜならこういう社会だからです、
というような事を分析できる力。
解決方法がなさそうな課題も多角的なアプローチで
糸口を見つけてくる力。

そういう俯瞰力みたいなものを持って、
事業をグロースしたいと考えています。

三つめの「PDCAC」。

全ての活動に仮説をもって、それに応える施策と
検証方法が明瞭でなければいけません。
決して思いつきのアイデアコンテストであっては
いけない。
マーケプロモは投資が伴うことが多いので、
そこはクリアでなければいけないと思っています。


四つめの「スピード」ですが、
我々の業界は技術の変化も競合の変化も激しく、
加えて収益のforecastの読み直し頻度も高いです。

その時々の環境下でスピード感をもって
最善のコミュニケーションプランを考え尽くす
必要があります。


これらは私自身、そして所属組織に対して、
課しているValueですが、広告会社さんや
制作会社さんにも理解いただけると、
すごくありがたいなと思います。


その流れで言うと、撮影現場でお会いする
スタッフの方をすごいなと思うのも、
感覚として似ている気がします。

一つ一つの判断にちゃんと理由がある。

お弁当を一個選ぶのにもきっと、
タレントさんの状況とか、何時に食べる人が
どのくらいいて、
何人ぐらいの人が
バラけて食べるから冷えても大丈夫なものをとか、
いろんなインプットの中で解像度高く、
また俯瞰で判断しているのを感じます。

私はそういうのが気になる人だから、
現場へ伺ったときに
「なるほど、こういう状況だったから、
そこからの逆算で制作部の方はこれを選んだんだな」
とか考えて「ありがたいなぁ、優秀だなぁ」
って思ってます(笑)

―― その制作部になりたいです(笑)

永田インプットの量が多ければ多いほど
アウトプットの精度は上がると思うのですが、
そういう意味で言うと、
広告制作の現場は
いろんな方がいろんな判断をし続けている場
だと思うので、現場で輝いている方は、

結局普段からアンテナを張っている方
なんじゃないかなと思います。
広告の現場にはそういう方が多い気がします。

どれだけ自分を律してインプットを重ねることが
できるか。
しかもそれって業界のことだけじゃなくて、
毎日の生活の中だったり、自分が視聴者とか
消費者であるときに気づいたインプットも大事で、

どれだけの情報量を自分の中に蓄積するかで
判断って変わると思いますし、
その精度の高い人が多いのが広告業界だと思います。

―― それは勇気をいただきました、
ありがとうございます。
では最後のご質問ですが、
今回のテーマ
「広告業界をキラキラさせるために必要なこと」
って何だと思われますか?

永田そうですね、二つあると思います。

一つめは、非建設的な業務を減らすこと。

今のご時世であればクライアント接待のようなものは
不要で、そのような時間よりも、
たとえばアカウント担当さんなら、

誰よりもクライアントやその競合のサービスや商品を
使い倒して、次どういうビジネスをすれば
どういう部分が伸びるんだろうとか、

そういうことを考えて提案して頂ける方が
建設的だと思います。


待ち時間とか接待のような業界的に残っているが、
無駄だなと思う慣習を減らすだけで、
自分のやりたいことに時間を割けて、
皆さんもキラキラできるのではないかと思います。

二つめはダイバーシティですね。

性別、国籍、年齢などの属性ダイバーシティ
だけでなく、キャリアダイバーシティというか、

違う業界や経験を経られた方が仲間になって、
新しい価値観やブレイクスルーのアイデア、
手法を注入してくれるといった変化も
すごく大事だと思っています。


たとえば40代男性って括っても、
CM制作会社にいるAさんと
銀行に新卒からいるBさんだと
価値観は全く違うじゃないですか。


分かりやすい例でいうと三木谷さんが銀行出身者
じゃなかったら、楽天カードと楽天銀行は
生まれてない気がしています。

三木谷さんご自身が金融業を熟知されていて、
その上で「IT×金融」というマッシュアップのセンスが
あったからこそ、新しいビジネスが
生まれたのではないかと。


そういう色んな職種の色んな業界の人を
マッシュアップできるキャリアダイバーシティの
環境から新しい企業文化やビジネスが生まれる
と思うのですが、
広告業界は、違う業界の人が
ボコボコ入ってくるイメージが
あまりない気がします。

―― そうかもしれませんね。

永田業界をキラキラさせるためには、
本質的なダイバーシティの実現が必要で、
そのためには「この人にこれをやってもらったら
一番だぞ」みたいな判断ができて、

いろんなバイアスを取っ払ってアサインできる
”目利き人”が必要なんだと感じています。


無駄な仕事を減らすことと、ダイバーシティ人材を
最適配置できる目利き。
この2つを実現させるだけでも結構夢のある業界に
なるんじゃないかなと思います。

―― ありがとうございます。
目利きって、アサインメントが仕事である
ぼくらプロデューサーに
一番必要なスキル
だと思います。そしてこの目利きの力に
注目がいけば、我々プロデューサーの
やりがいも
高まる気がしました。

永田面白い仕事だと思います。
「すごいやつ見つけてきたい!」ってなりますよね?

―― はい。

永田「この人のここが素晴らしいから、
今のあのチームに入れたら化学反応起こるぞ」
というのを目利きする力。


たとえば新しいUIを作るのって、
もはや我々世代ではなくもっと若い才能を
アサインしたほうが
うまくいく場合が多いのですが、
これはただやみくもに若者を連れてくればいい
という事でもないんです。


「ちょっと経験値ないんですけど有望なので
経験を積ませたくて」とか「荒削りですけど今後
将来あるやつなんです」だと
「チャレンジさせてあげてる感」が残ってて、
それがそもそも違うと思うのです。

将来じゃなく、既に今パフォーマンスできる方って
たくさんいるので。

そういう人材が必ずいます。
今いる人材の中で一番この人がやったら
成功確度が高いよねっていうアサインは
年齢や経験のバイアス取っ払って
検討した方がいいです。


そこを見つけてくるのはとても面白い仕事だし、
私自身マネージャー職ですから、自分の今後の仕事は
そういう目利きをする事だと思っています。
マネージャー職が今までの慣習に引きずられない
アサインメントの妙ができる人になれれば、
業界は元気になっていくんじゃないかなと
思います。

―― 若者より前に
我々がサボってるヒマないですね。

永田ほんとそうですね。

永田 佑子(ながた ゆうこ)

LINEヤフー株式会社 執行役員 マーケティング統括本部長/株式会社ZOZO 取締役
2004年より楽天株式会社にて主にEC×コミュニケーションの領域であるギフト市場の責任者として、マーケティング、プロダクト開発に従事。 2011年に日本ロレアル株式会社へ移り、e-business managerとしてデジタルマーケティング、ECおよびCRM開発を推進。 2018年よりヤフー株式会社勤務。その後親会社であるZホールディングスにおいてCo-CEO直下で各事業会社のPMI推進、ブランドマネジメント、兼職でヤフー株式会社においてはマーケティングコミュニケーションの責任者を務める。 2023年10月よりLINEヤフー株式会社 執行役員 マーケティング統括本部長として、全社横断のマーケティングプロモーション領域を担う。

  • 聞き手/株式会社東北新社
    P2センター長/エグゼクティブプロデューサー
    戸田 和也
  • 記事公開日/2024.8.1
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