プロダクション

プロダクションマネージャー新井駿平さんに聞く
「広告業界がキラキラするために今必要なこと」

―― まずは自己紹介からお願いします。

新井ピラミッドフィルムの新井駿平、入社6年目、
制作本部のプロダクションマネージャーです。

普段は企画段階から入ってスタッフと打ち合わせ
しながら、スケジュールや予算も管理しつつ、
CMを中心とした広告動画の制作をしています。

―― 仕事のどんなところに
やりがいを感じていますか。

新井どうしたら「より良い広告動画をつくれるか」
ということを各部署でアイデアを出し合い、
自分としても「作品の仕上がり」を
ずっと考えている時が面白いと感じます。

本当だったら演出面に関わることは、
基本的に監督にお任せすべきですが、
少し思う節があったりすると、PMの立場からでも
率直に提案するようにしていて、
監督から「確かにそうね」と返されると
すごく嬉しいですし、そういう瞬間に
「みんなで何かをつくっている」感じがして、
すごく楽しいです。

―― この仕事を選んだきっかけを教えてください。

新井すごくミーハーで、もともとテレビの制作会社に
就職したいなと思っていました。

子どもの時からずっとテレビっ子で、
バラエティー、ドラマ、音楽番組だったりを
暇があったら見ているような子でした。

これを仕事にできたら芸能人にも会えるし、
毎日楽しそうだな、本当にそんな理由から始まって、
動画への興味を持ちました。


その後、ピラミッドフィルムでインターンをしたのが
一番大きかったですね。

「CM制作の現場ってこんな感じでやるんだ!」
ということを本格的に知ることができました。
インターンは2、3週間と短かったのですが、
とにかく色々な仕事をやらせてもらえました。

例えば、撮影が週に1回、それぞれの仕事が
ぜんぜん違っていて、ある日はオーディション、
ある日はロケハン。一つの会社でインターンしながら、
毎日が変化の連続で色々なスタッフと出会い、
色々な仕事をした経験がすごく面白いなと思ったことを
覚えています。

―― これまでやった仕事で、
一番思い出に残っている仕事は何ですか。

新井家電の仕事です。

というのは、お話ししました通り、
根っからのミーハーで中学生の時からずっと
「好きなアイドルと仕事ができるなら、この業界!」
という思いでキャリアをスタートさせたほどなので、
それが叶ったのは忘れられません。

正直言って大変でしたが、大変さの中に
やりがいもあり、やっている時は人間の感情を
全部体験したのではないかっていうくらい、
色々ありました(笑)。

特に、自分の無力さを痛感した時は悔しかったです。

予算が限られているのに、やりたいことは
数多くあって、バランスをとらなくちゃいけない。
これをやるのにどのくらいのお金が掛かって、
どれだけの人が動くとか分からなくて、
先輩たちが試行錯誤してるときに
自分はついていけなくてとにかく辛かったです。

楽しかったのは編集の時です。

監督にはこういう狙いがあってこの編集になったとか、
こういうトークがあるからこのオチに生きてくるとか、
そういう監督の「狙い」「テクニック」「演出意図」を
知ることができたのはとても勉強になりました。


監督は、そもそも何でこういう企画が生まれたのか、
代理店の人たちやクリエイティブの人たちが
やりたいことをきちんと汲んで、クライアントの要望も
受け止めた上で「こういうCMに仕上げたい」という
狙いがありました。


根っこの部分がすごくしっかりされていて、
携わる関係者がハッピーになるように仕上げたい
という思いが、「言葉選び」「話す様子」から
ビンビン伝わってきました。
その仕事をしている時はその仕事に100%で、
本当に考えている方だなと感じました。

―― 広告制作で実際に働いて、
「あれ、何かおかしいな?」みたいに
感じることはありますか。

新井ずっと思っているのは、「スケジューリング問題」です。
どうして毎回思い通りにいかないのだろうと、
ずっと思っています(笑)

たとえば、仕上げから逆算して数週間前からの
スケジュールを合意して進行しているにも関わらず、
ある人のひと声で「全部ナシ」になるくらいのことが
起きたりします。


僕の妻も同じプロダクションで働いていまして、
先日同じようなことが起きました。
イメージを共有するためにVコンをつくり、提案して、
合意を得ていました。
そしてVコン通りに撮影・編集し、試写したそうです。

ちゃんとステップを踏んだはずなのに、
「やっぱり違う」と。
どうして広告の現場は、こういうことが
起こってしまうのだろうと思っています。

もう一つは、「決められない問題」です。

たとえば15秒の素材だと、おのずと15秒なりの
「伝わる限界」がありますよね。

伝わる限界があることをお伝えして
言葉を絞ってほしいとお願いしても、
「いや、全部入れたいです」
「とりあえずやりたいこと全部詰め込んでくれ」
ということが結構あります。

だいたい良い結果になりません…(笑)

―― クライアントや代理店に求めることは
ありますか。

新井困るのは、絶対に尺に収まらない量の情報に対して
「そこをどうにかしてもらえませんか?」と
物理的に厳しいお願いをされることです。

重複しますが、オリエンの段階で
「自分たちが言いたいこと」を絞り、
「やりたいこと」を明確にしていただければと思います。
制作現場に情報の取捨選択の判断を委ねるのは
違うなあと思います。


逆に、あらかじめ決めていただくことによって、
監督やプロダクションは限られた秒数の
「伝わる限界」に対して表現で濃密にできないか
工夫や努力ができます。

―― 広告業界をキラキラさせるためには
どんなことが必要だと思いますか。

新井MVがやりたい、CMがやりたいと、
入ってきた時点では、好奇心でいっぱいで、
キラキラしているのですが、
いつしかキラキラしなくなる。

先ほど話した「スケジューリング問題」
「決められない問題」を始め、
いろんな厳しい現実に直面して、

「あぁ納得できない」って思いが違和感や諦めに変わり、
何も感じなくなって輝きを失ってしまう感じがします。


その結果、やめちゃいますよね。

あと、最近の映像業界の人手不足からくる
「誰でもいいから手を貸してくれ」という問題です。

社内外、新人もアルバイトもフリーランスも、
とりあえず手当たり次第ではなく、
「こういう意味でこの仕事にはあなたが必要です」
というお互いを尊重するコミュニケーションが
できれば、「ああ、自分は役に立てる」と思えて、
キラキラできるかもしれません。

―― お互いを理解することは確かに大事ですね。
業界全体視点で、こう変われば、
キラキラを失わずに働けるというアイデアは
ありますか。

新井僕はキラキラを失っていないので言えますが、
下積みも全部意味があります。

アシスタントから始まり、自信を持てたら
プロダクションマネージャーになり、
やがてプロデューサーになってほしいというのが、
普通のキャリアアップだと思っています。

ただ、最近入ってくる子たちは、自分たちの時とは
すごく違うと思います、やりたいことを
明確に持っています。
だから、少しでも違うなっていうところがあると、
やめちゃう。

僕がよく感じるのは、
お弁当発注とか、雑誌を買ってきてほしいとか、
撮影準備でこれがいるから買ってきてほしいのような、
言ってしまえば雑用業務なのですが、それに対しては
全くやる気を持ってやってくれない。


もちろん、そこにも意味はあって、
たとえば食事はスタッフのパフォーマンスに
つながるわけです。


今の子たちは、やりたいことが
すごくはっきりしている分、こっちから光を当てて、
しっかりその子たちが輝ける場所にすることが
大事だなと思っています。

たとえば、現場が好きでとにかく色々な「現場」を
やっていたい人がいます。
逆に、そこに対してはそんなにやりがいを感じなくて、
準備の方が得意という人がいます。
そういう視点で見てあげるということです。

とにかく、人が足りないからといって、
意味なくどんどんやらせるのではなくて、
その人の輝きはどこで生まれるかなとか考えてあげて、
その人が輝ける場所を与えてあげるのも
会社としての役割なのではないかと思います。

―― 最後の質問。
上の人、そして若い人、それぞれに
メッセージをお願いします。

新井上の人たちは、下の子たちが思うように
成長していないからとか、自分の思うように
やってくれないからということで
指導をやめるのではなくて、叱ったり、
注意してほしいと思います。

それで関係性が悪くなってしまうかもしれない
ですけど、それだと両者にとってよくない。
しっかり話し合ったほうがいいと思っています。

僕は今、中間の立場なので、プロデューサーと
アシスタントに挟まれることが多くて、
そういう瞬間は悲しくて切なく感じます。

気遣っているなら、しっかりとそう言葉にして
あげてほしいなと思います、
僕がオブラート役になるのではなくて。

新井若い人に対しては、会社に入ってみて、
理想と少し違うって思ったとしても、
ただ「なんか違うなー、やりたくないな」って
思うのではなくて、どこか自分がやりたいことや
自分の進みたい方向に役立っていたり、
意味があると思えるように考えるといいと思います。


せっかく人生の限られた時間の中で、少なからず
自分で決めた会社に就職しているはずだし、
自分で選んだ道でそこにいるはずだし、
それを選んだのは自分だから、「自分が思う場所に
行くためには、どういうふうに仕事をしたらいいのか」
を考えて行動すれば、「ハッピーになるよ」と
言いたいです。

―― 新井くん、ありがとうございました。

新井 駿平(あらい しゅんぺい)

株式会社ピラミッドフィルム/プロダクションマネージャー
1995年生まれ。群馬県出身。2018年入社。元ラガーマン。頑張った後の美味い飯とお酒が生きがい。

  • 聞き手/株式会社ピラミッドフィルム
    チーフプロデューサー
    村井 大智
  • 記事公開日/2024.5.31
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