
プロデューサー山本浩さんに聞く、
「広告業界がキラキラするために今、必要なこと」
何でもかんでも片っ端から
首突っ込んでいくのが
僕には
合っていた
―― 山本さん、自己紹介お願いします。
山本1983年に大学卒業後、
アニメーションスタッフルームという会社に
入社しました。15年いましたね。
その後、1998年に今のガレージフィルムを作り、
今年で28年目になりました。
トータル43年目も業界にお世話になっています。
―― アニメーションスタッフルームを
受けられたっていうのは、
学生時代から
CG・アニメへの興味が相当強くあった
ということですか。
山本実はちょっと違ってたんですよね。
はっきり思い出せないけど、
学生時代の終わりの頃だったか、
ピンクフロイドとかイエスなんかの
プログレッシブロック系の音楽に
地平線みたいな映像が当たっているのを見て、
「あれ?映像面白いぞ」と思ったのが、
きっかけかな。
そこに当時は最先端のCG映像が
入って来たものだから、接点がやっと生まれてきた。
コンピューターは好きではなかったけど、
CGの事を調べていくと、
探しても探しても出てくるんですよ、
アニメーションスタッフルームっていう会社が。
当時、飛ぶ鳥落とす勢いだったんで。
―― アニメーションスタッフルームは
広告を中心に活動していたと思うのですが、
広告への興味も強かったんですか?
山本いや、それもちょっと違って、
ただ単に映像制作の現場に行きたかった。
それがたまたま広告だった。
広告ってさ、いろんなカテゴリーに
首突っ込まなきゃいけないじゃない。
音楽もそうだし、アートとか自然、歴史、
俳優、タレント、スポーツとか、映画のことも。
何でもかんでも片っ端から首突っ込んでいくのが
僕には合っていて、それが面白かったから、
長く続いたんだと思う。
―― マルチに楽しめる素質を持った人が
伸びる世界っていうことですね。
山本まあ、全方向にアンテナ張ってたかもしれない。
僕がだめだったのは、映画見てない・本読んでない。
故に新鮮に感じて楽しかったんだと思う。
―― なるほど。
知らないことをインプットできる楽しさが
そこにはあった。
山本さんはずっと
アニメーションじゃないですか?
なんでも首を突っ込んで興味が広がる中で、
やっぱりアニメーションが
特別面白かったんですか?
山本どんなにテクノロジーが進化しても、
アニメーションはプリミティブな作業の積み重ねで、
映像が出来上がるプロセスもすごく面白いのと、
人間臭くていやでも作家の個性がにじみ出てくるのが
良かったんだよ。
アニメーションと言っても手書きもあれば、
駒撮りの人形もあるし、そこにCGもあるし、
編集でやるネタもあるし、
それを総称としてアニメなわけ。
アニメイトするって魂入れるって意味だからさ。
―― 確かに山本さんとお仕事する機会は、
基本的にはアニメを発注してるんだけど、
山本さんの奥にはアニメに留まらない
知識からの助言ももらった。
山本ラッキーなことに前の会社は
撮影スタジオを作ったから
実写に立ち会えるようになって。
撮影、照明、美術、特効(爆発とか火とか)、
モーションコントロールなんて
最先端と言われていたものも一通り深く経験できて、
ものすごく勉強になった。
やっぱり実写の制作現場を見て、
色々痛い目に遭っているから、
どのぐらい手間かかるとか、
あとあと面倒くさいことになるとかも
なんとなく読めるからかな。
―― 今のCGやVFXの技術がまとまってくるのを、
現場で見てきているっていうは強いですよね。
仕事としていろいろなカテゴリーに
首突っ込んで、アニメだけでなく
実写スタジオも経験した、
その視線が細かいところに目が届く、
そういう山本さんを育てたんですね。
山本まあ、この業界、
いろんなタイプの強烈な方々がいますよね。
そんな海千山千の人たちと、
散々やってきましたから、
上手にやらないと結局プロデューサーや制作は
お金で苦労しちゃうじゃない。
だから、なるべく寄り道、遠回りしないで、
失敗しないでやる方法を
知らないうちに身に付けるよね。
制作は5年頑張ってほしい。
そしてザワつく経験が大切。
―― 山本さんはこれだけ長いキャリアがあって、
昔からの人との仕事だけじゃなく、
今の人とも仕事の幅が広がっている
じゃないですか。新しい人との仕事で
気にかけていることは?
山本制作って、素人で入って3年ぐらい我慢して
やっていると目つきが変わって、
だんだんちゃんと「いっぱし」の目つきになってきて、
5年ぐらいやっていると全く別の人格に
進化してくるんだよね。
それをも越して8年ぐらいやると、
世界の果て行っても食っていけるぞってくらいに、
何でも対応できる能力を身につけてるんだよね。
5年だね、5年やれば一人前。
8年近くやれば無双になってくる。
今の日本で災害があると、
行政の復興ではなかなかすぐ動かないじゃん。
プロダクションの制作に仕切らせたら
あっという間に10倍ぐらい早く
いろんなことうまくいくと思うんだよね。
コスパ、スケジュールとか一番いい解を、
その時の一番いい答えをパッと見つけて、
行動に持っていける。
大変だけど、5年頑張れって。
5年やったらすごい人間になれるし、
仕事もどんどん楽しくなる。
―― 山本さんは、その5年で育った人たちが
どんどん代替わりして、
新しい人と
付き合えてるってことになる。輪廻ですね。
山本皆さんも同じだと思いますが、
僕がちゃんと覚えている仕事って、
トラブルも含め何かあった仕事なんで。
記憶に残る、トゲみたいに。
結果的にそういうザワっとなったやつ、
ザワついたやつしか覚えてなくて、
それがまた良い思い出なんだよね。
―― わかります。その5年間にザワついたことを
何回経験したかが制作の育つところ。
で、山本さんが5年間で変わったなって
感じる制作は、きっとザワついた経験を
濃くやってる。
山本そういうやつは、他でもザワついてる。
いろんなところでザワつく経験をしていて、
そういうプロデューサー・制作は、
どんどん成長していっている。
なんとなく8年周期の気がするんだよね。
5年で成長した制作が、
次の若手の制作を連れてきて、
8年かかってプロデューサーとしてまとまる。
リセットされてまたフレッシュな若手制作が
送り込まれてくる。
40何年だと5~6回ぐらい回ってる。
面白いよね。
でも最近はさすがにやばくなってきていて、
若い制作が何言ってるかわかんなくなってきた。
共通言語が変わってきたと言うか、
使っているものが違う。
よくあるんだけど、「こんな感じを目指します。」
ってリファレンス持ってきて見せられたのが、
昔僕がやったやつなんだよね。
「これ俺やった」とか言って(笑)
リファレンスとPPM。
そしてアニメやCGには
お金が残っていない。
山本最近、良くないのってさ、参考を見すぎる。
リファレンスを出した方が
予定もリスクも減るってのはわかるけどさ、
驚きがないんだよね。
僕らもやり易いのは事実なんだけど。
―― リファレンスを沢山求められることが、
制作の作業負担を大きくしていて、
映像制作・CM制作において
労働時間管理上
かなり深刻な問題になっていると
思っています。
PPMで全部揃ってないと前に進めない。
現場で生まれる可能性があることは、
全部資料を用意して
説明できないといけない。
山本そのPPMにもつながると思うんだけど、
結局は制作費の使い方をどうするか、
が重要ってことだと思う。
PPMの後にオーダーされたら、
追加の金が発生しますよ
っていうためのものでしょう。
―― 立て付けは そうですね。
山本つまり、プロデューサー・制作が書いている
実行予算は、値段がついてて定価がわかるものには、
パって出せるんだよ。
PPMではそこが議論され易くて、
スタジオ何時間、機材何日間、タレント費、
ってそういった部分がまず決まっていく。
それには定価がついてるから。
そうすると、アニメとかCGとかの、
いわゆるやってみないとわからなくて
定価がつけ辛いところに金が残ってない
っていう事がすごく多い。
とどのつまり制作予算に余裕が無さ過ぎるんだな。
5年10年単位だとわかんないけど、
40年見ちゃうとおかしいよって思うんだよね。
僕がスタジオ撮影の仕事をバンバンやっていた
30年ぐらい前と、今の撮影部とか照明部さんの
アシスタントとかのギャラって
ずっと上がってないって聞くし、
それっておかしくない?
アニメの世界はもっと厳しくて、
内職みたいな仕事ってまだ存在していて、
それに頼って利益あげてたんだよね。
肌感で言うと1.5倍にしてくれって感じだね。
大元を。
―― 広告主の広告予算が
大元になっていますから・・・
でも、予算はこれだけしかないけど、
なんとかしてっていうオーダー体質のままだと、
伸びる方向が見つからないですね。
山本この業界をキラキラさせたいわけでしょ?
だったらもっと皆が儲かる構造にしないと。
こんなにすごいスターが生まれちゃうんだよ
この広告業界では、とかならないと。
儲かる仕組みっていうか、
今はお金がやっぱり重要だと思うんだよね。
広告主と広告会社は、オリエンを早く!
プロダクションは若手制作の面倒を
もう少し見て!
―― 改めて、広告主と広告会社と制作会社
それぞれのスタッフに、
もっとこうして欲しい
ことはありませんか?
山本広告主にも代理店にも言えるけど、
もう1ヶ月前に動き出してほしいかな。
例年の実績でそういうスケジュールに
なっているのかもしれないけど、
オリエンをもう1ヶ月前倒しにして
実制作の時間をもう少し長くしていただけたらなぁ。
―― 同感です。
ただ、広告主が1ヶ月前倒しでオリエンしても
どこかでその時間は無くなっちゃう。
どこかで溶けがちです。
山本プロダクションもきつくて、
撮影準備ができないとか、
そのままグジャーと進んじゃうと
結局金が足らなくなるし、
そのしわ寄せをプロダクションと
僕らアニメ担当とかが食らうことになる。
だから、広告主+広告会社のクリエイティブの
プレゼンを1ヶ月前にする努力を!
―― プロダクションとしても、
考える時間を増やせると色んなことを
解決するための可能性を
探れると思います。
山本プロダクションへのお願いは
制作のチーフがプロデューサーになった後も、
せめてもう半年ぐらいはオーバーラップして
新しい制作の面倒見てくれって、言いたい。
バトンタッチとか、こうあるべきとかを
もうちょっと見せてほしい。
それがない状態で若手の制作が来るから。
またリセットかよって。
―― いや、もしかしたらプロデューサーが、
若手の制作に対して
「山本さんに叱られて来い」って
送り込んでるかも。
山本いやいや、止めて。
結局、8年周期のサイクルの中で
5年位でまた若返るわけ。
若返って、でもずっと同じところにいる。
僕はどんどん年はとるけど、
ずっと若い人を相手にしているわけですよ。
ずっとね。
プロダクションは1年目2年目ぐらいの若手を
僕のところへ送り込んでくるから。
―― 結局、ベテランディレクターの仕事であっても、
山本さんはずっと、若いPMと話すわけ
ですからね。
山本スケジュールの相談をされれば
「これだとこうなるでしょ?この可能性あるでしょ?」
って答えるし、コンテを見て「この場合って、
撮影と合成はどういうふうに考えてる?」って
逆に質問するじゃない。
「じゃあこういう撮り方と
こういう撮り方があるけど、
これ手持ちカメラかな?」と聞いても
わかんないわけ。
でその若手制作が「う~ん」とか
困っちゃってる時に、
考える切っ掛けを話してあげるんだよ。
すっごい勉強になっているはずなんだよ、きっと。
で、新人だとずっと思ってたその制作が
ディレクターとの打合せでさ、
「こういうことも考えられるんじゃないでしょうか」って、
僕の言葉じゃなくて、自分の言葉で言った瞬間に
「おおっ」てなるじゃない。
―― 知識が得られたことによって、
その制作が成長している。
山本そう、しゃべれるようになるのよ。
そういうことを、プロダクションには
自分のところの若手制作にやってほしいね。
せめて半年オーバーラップして。
現場の余白を復活させたい。
山本打合せの場で、どれだけ質問して
自分の提案できるかは、とても大切にしている。
アニメやCG屋は特に質問攻めにすることが多い。
コンテ見て、これどうしたい?カメラは動く?
レンズはどのぐらい?とか。
他にもその時には答えられないようなことまで。
昔、中島信也さんがねポソって言ったんだよね。
「まあ、俺だって神様じゃないからさ、
何でもわかってるわけじゃないからさ。」って。
確かにそりゃそうだよな。
だから、自分の範疇で質問して提案する。
すると、意外と「あ、それいいじゃないですか」
っていう人もいる。
みんな困っているんだよ。
だからこういうアイディアあるかもしれない
って言うと、「あ、それいいかも」となっていく。
みんなで一緒に作るわけだからさ。
早くアイディアをまとめるには、
言われた通りともう一個オマケを、
なるべく手間かけずに作れるバリエーションを
作っていく。
「この方がいいんじゃない?」
「あと10フレあるとこういうの作れます」って言うと、
ダメな場合もあるけど、
「10フレならなんとかします」って
上手くいくことも結構ある。
そのぐらいの余白はあるのよ、みんな。
―― そういう提案、大事ですよね。
現場で生まれる「もの作り」っていうか。
山本「コンテはこうだったけど、
それは撮っとくけど、この方が良くね?」
とか言って別タイプも撮っておこうなんて感じ、
今は難しいよね。
―― 映像制作業界を面白くさせるのは、
そういうところ。
現場に楽しい余白があるっていうことを
復活させる。
多くの現場でそれができる感じになって
行きたいですね。
山本そのぐらいの余裕も欲しいし、
みんな求めてるはずなんだよなあ。
もう撮影香盤もガチガチだしさ。
―― 山本さんはそんな余白に多く触れられて、
40何年も続けられてるんだろうなと思います。
山本毎回カスタムメイドで、
毎回違うから飽きる暇がなかった。
この業界は絶対面白いはずなんだよね。
だって冒険やったり、エンタメできたり、
会えない人に会えるとか、
行けないところに行けるとかさ。
―― 本当そうですよ。
広告って可能性を自分から提案できる
仕事だから。
そういうことにチャレンジできる、
可能性のある世界であるっていうのを、
証明し続けないといけないですね。
山本下手したら宇宙にも行くみたいなさ、
いろんなネタを全部さ、
音楽から文化とか絵とか演劇でもなんでも
あらゆるところに首突っ込めるんだよね。
こんな楽しい仕事ないと思うんだよ。
―― それをちゃんと実践し続けている業界で
いられるように、夢のある広告作りましょう。
山本そうなれば、面白そうって目指してくるでしょう。
楽しい仕事だと思うんだよ。
いや、でもやっぱり大事なのは、
制作予算1.5倍ですかね。
―― そうなって欲しいですね。
そうなるのを見届けるまで、
まだまだ仕事頑張ってください。
今日はありがとうございました。
山本はい、もうちょっとだけやります。
ガレージフィルムをよろしくお願いします。

株式会社ガレージフィルム プロデューサー
1960年生まれ。
中央大学理工学部 電気工学科卒業後、1983年㈱アニメーションスタッフルームに入社。
1998年㈱ガレージフィルム設立。主にアニメーション、CGを使った映像制作に従事。
現在に至る。
- 聞き手/株式会社サン・アド
プロデューサー
臼井 悟史 - 記事公開日/2025.10.1